コロナ禍で改めて露呈するカナダの託児事情の問題点

国が違えばシステムも違う。何を基準に良い悪いの判断をするのか、そしてより良好な方向へと変化して行くだけの基盤が既にあるのか、それともこれから作り上げなければいけないのか。

コロナウイルスの世界的流行で、社会全体が今まで以上にそのあり方に注視する結果となったチャイルドケアも、カナダのシステムは日本のそれとは大きく異なっている。でも「カナダ」の響きが与える安心感に惑わされてはいけない(カナダ在住の人はきっと初めから安心感など感じていない)実は結構グレーだ。

日本でも「待機児童」などという言葉が聞かれて久しい。幼い子供を抱える家庭にとっては切実な問題だろうと思う。私自身には子供が居ないのでその切実さを身近に感じる事は無かったし、今後も無いのだが、最近になってチャイルドケアシステムが社会に与え得る問題について考える場面に遭遇する事があった。

コロナ禍に於けるカナダの託児事情

コロナウイルスの感染拡大を受けて、カナダ国内でも一部の州と特にその大都市一帯では「半ロックダウン」とも呼ぶべき政策が実施されている。私が住む州を例に挙げると、レストランでの店内飲食が禁止されていたり、営業が許されている食料品店でも入場制限が行われている他、同居する者以外家に迎え入れてはいけない、というルールも含まれている。これらは日本のような「要請」のレベルではなく「命令」であり、守らなければ罰金が科せられる事になる。

無論、例外事項が皆無と言う訳ではない。同居する者以外は家に迎え入れてはいけない決まりの適用外となるケースとして、家でチャイルドケアを提供している場合 (home-based child care) がある。

では、家で提供するチャイルドケアとは具体的にどのようなものなのか。実は想像する以上にその幅は広い。個人が保育事業者として自宅で託児サービスを運営しているケース(州からの認可を受けているものと認可外のものを含む)以外に、単にお隣りさんの子供を一時的に預かるような状況でさえもがここに含まれる。これは平時の話ではない。隣りの家に子供を預けたり、知り合いから子供を預けられたりする事が、このひどいコロナ禍の最中にあっても許されている。

カナダでは託児所の多くが「認可外」であるという事実

カナダでは夫婦共働きの所帯が多く、託児サービスに対する需要は小さくない。また、一部の州では州法に定められた年齢に満たない子供だけで留守番させるのを禁じていて、この場合託児サービスの重要度は更に増す事となる。

それにも拘らず、unlicensed、所謂「認可外」の託児所が全体に占める割合はかなり大きいのが現実だ。当然「認可外」の託児所でも評判のいいところはあり、必ずしも「認可外」イコール「あやしい」ではない。しかし各州政府の監督外にある為、人数制限がある点を除いては、州により認可された託児所であれば満足するべき各条件の制約を受ける事は基本的に無い。問題が発生し、それが発覚すれば州の介入があるが、発覚しなければそのままかも知れないというのは、子供を預ける側にしてみれば少なからず心配にもなるだろう。実際にこれまでも全国各地で問題は発生し、その度に大きな議論を巻き起こして来ているのだ。

“In some parts of Canada, dog walkers and hot dog vendors require more permits than some child care providers.”

“U of T researchers on unlicensed child care: Why do dog walkers need more permits than care providers?” / University of Toronto

各地の学校で発生した集団感染

当地アルバータ州では「認可外」で運営する託児事業者が受け入れる事のできる人数は6人までと決められている(事業者自身の子供を含まず)。この規定は個人が自宅で運営するケース、そして一時的に他者の子供を預かる場合にも適用される。例えばサービス提供者の自宅に2人の子供が居て、同時に6人の子供を外から受け入れていたともなれば、同じ空間に8人の子供が居る事になる。果たしてこれは子供にとって安全と言える環境なのだろうか?

コロナに関して言えば、他人と接触する機会が少なければ少ない程感染の危険性は下がる。だからこそ店を閉め、各種サービスを停止する措置が執られている。それでもチャイルドケアが提供される理由、チャイルドケアを受けられる理由、それは子供が子供であるという事実ただ一つだ

そして学校もまた、子供達に教育を受ける場を提供するのと同時に、それが義務教育である限りは保護者に代わって子供達を守る責任を背負っている。今回も州政府が感染拡大の状況を踏まえ、綿密な研究を重ねてガイダンスを打ち出し、教育現場でもそれが実践された。しかし結果はどうだったか。各地の小中学校で次から次へと集団感染が発生するのを抑える事はできず、オンライン形式で授業を進める他無くなってしまった。結局子供達を守る事はできなかった。

問題は、学校ですらできない事を、政府の監督下になく、政府の指針の影響も受けない「認可外」の託児事業者にできるのかだ。彼等にどこまで求める事ができるのか。どれだけの責任を課すのが適当なのか。これまで以上に広く、深く議論を重ねる時に来ていると言えるだろう。

社会全体で子供を守るというスタンスではあるが

社会全体で子供を守るというスタンスであるからこそ、休校に反対する声も多く上がったのだろう。子供の成長には教育はもちろん、友達と遊ぶ事も必要だと。そして人々は同じ理由で積極的に他人の子供を預かる事だってする。

しかしそれは子供達を守るのに最良の選択なのだろうか。そこには大きな矛盾が存在しているように見える。コロナ禍でも学校に行かされ、他人の家に預けられる事に対して、子供達は何の決定権も持たないにも拘らず、その行動に潜むリスクを冒す事だけは無条件で求められているからだ。リスクを冒してウイルスに感染し、更には他人にも移してしまっても、大人だったら自分のせいじゃないとうそぶく事もできるかも知れない。でも子供にもそれができるのか。大人は子供にもうそぶく事を教えるのだろうか。

残念ながらコロナの発生は突発的な事故とは違ったようだ。ニュースで一度見たきりで終わってはくれなかった。これを機に、現在の託児事情の問題点がより注目され、改善される方向へと進み、更に多くの安全な託児環境が子供達に提供されるよう願っている。

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