He or She? ドッグオーナー同士の会話から

今年に入ってシェルターから迎えた我が家2匹目の犬。まだ5ヶ月程度の幼子という事もあって、ドッグパークに連れて行く度多くの人に話しかけられる。

「かわいい!」

「触っても大丈夫?」

「おやつあげてもいい?」

すっかりお供にでも成り下がったかのような私を傍目に、子犬であるのをいい事にさんざんチヤホヤされた挙句、ただでおやつまでもらえてしまう。全くいい身分である。

そんなやりとりをする中で私にも気がついた点がある。

大抵の人は我が家の犬の性別を知る事無くして、ちゃんと「おすわり」ができれば「good boy!」と言っておやつをあげる。たまに男の子か、女の子なのかを聞いて来る人が居ても、「he or she?」と100%の確率で「he」を先に出して質問して来るのだ。

私は一昔前にテレビによく出て来たフェミニストのおばさんではないから、どうして「good girl!」でも「she or he?」でもないのかと憤るような事は無い。それでも男女を不公平に扱おうものなら途端に非難の声を浴びるだろうこの国で、いつも当たり前のように男の子が先に来たり、或いは初めから男の子だとみなされるのには不思議にも思う。

ちなみに我が家の2匹はいずれも女の子だ。

私がこういった事に対して敏感になりがちなのは、これまで長い時間をそれぞれに言語も文化も異なる国で過ごして来たせいかも知れない。

日本語は私の母国語であるのを抜きにしても結構便利な言語で、主語無しで構成された文章が頻繁に使われる。これは性別を特定できないようなケースで特に都合がいい。また、文法的により英語に近い中国語の場合では、英語の三人称単数にあたる単語が、性別を問わないばかりか、人であっても物であっても一様に「tā」と発音されるものだから、思い違いをしていたところで相手はそれを知る由も無い。

ところが英語では主語を全く使わずに会話を長く続けるのは困難だし、性別を知らずしては適切な主語をピックアップする事すら叶わない。

単語を選び間違えたからと言って怒られるような事はそうそう無いだろう。それでも私は敏感にならざるを得ない。他の人が「boy」や「he」を何も考えずに使っていても私にはできない。まるで悪気が無く口にした言葉であっても、それが知らないうちに文化的、習慣的タブーに触れて相手の心証を害する事は海外生活ではよく聞く事だし、私自身もそのような経験がある。

結局のところ私が住んでいるのは他人様の土地。無駄にヘマをする事で自分の立場を悪くしたくはないのだ。自分を守る為にはどんなに敏感でも敏感過ぎる事など無い。

だからそんな私が他の飼い主さんとの会話を避けられない場面に遭遇した時は、頭と口で無難に主語抜きの文章を組み立てつつ、目だけは別のところに注意が行っている。それ以外に性別を判断できる要素など無いとは言え、私の苦しみを知らない人にその視線だけに気づかれてしまえばもう完全に変態だ。

そうか。変態なのか。ショックだ。しかしこれまた海外生活の真実である。