コロナ禍で変化した生活 〜カナダのユニクロで初めてジーンズを購入した話〜

高校卒業以来ずっと海外で暮らしている私は、生活して来た国々での環境にも影響されたのか、ファッションなどという言葉は自分の辞書には載っていないとばかりに、そういった事にはまるで無頓着に過ごしている。

ここカナダの環境もそれまで長く生活していたアジアの国に負けず劣らずで、私にとっても都合がいい。パジャマ姿で家の外に出て犬に用足しをさせている人が居れば、色的にも、価格的にもアンバランス感満載のジャージ+ダウンジャケットを身につけてスーパーで買い物する人も居る。そんな彼等を見てつくづくラクでラフな人々だと思いながら、自分だって平気でさんざん着古した服をまだ着ているのだから、目糞鼻糞を笑うもいいところである。

そんな私が少なくとも過去十数年はお世話になり続けているのがユニクロで、元々安価な服を着倒していれば人様にはだらしないと思われても仕方無いのだが、カナダで別のブランドの服を試しに買うと値が張るくせして質が伴わない場合も多く、結局いつも帰国するチャンスを待ってユニクロでまとめ買いするのがこれまでのお決まりだった。

今でこそユニクロの店舗を世界各地で見かけるようになり、ここカナダにも進出してはいるもののその大半がバンクーバーとトロント都市圏内にあり、他はモントリオールに1軒と、こちらアルバータ州のエドモントンに1軒あるだけで(近々モントリオール近郊のラヴァルにもう1店舗オープン予定との事)、私自身はアルバータに越して来るまで全くの無縁だったし、実は今でもそうそう当地のユニクロで買い物する気にはならない。

その理由は値段設定。同じ物を日本のユニクロで買った場合との価格を実際に比較した事は無いから、これはあくまで感覚的な判断に過ぎないのだけれども、こちらでの値段は日本より随分高いように思う。

折角の機会なので値段比べをしてみたところ、メンズの「ヒートテックVネックT」が日本での定価は990円であるのに対し、カナダでは19.9ドル(現在のレートで約1670円)、レディースの「ウルトラライトダウンジャケット」では、日本なら5990円、カナダでは89.9ドル(約7520円)している。

だから、太腿が立派過ぎるあまり摩擦でジーンズの股下部分に穴が開き始めても、次回帰国するまで何とか耐え抜いてくれるよう願っていたし、外出時に穴から入る冷気で冷凍モモ肉ができてしまいそうになっても、これまたユニクロのヒートテックタイツを履く事でごまかし続けていた。しかしとうとう限界は訪れた。これ以上頑張ると後ろを歩く人にそれが見えてしまいそうになるまで穴面積は拡大してしまったのだった。

ダメだ、このままでは道往く人々を闇に覆われたアレフガルドへと誘(いざな)ってしまう。そして私はようやく決心する。エドモントンのユニクロに行こうと。

「これも全てはコロナ禍のせい。コロナが流行したりしなければとっくに帰国する機会があったはず」。

広がりゆく穴と我慢比べでもするように過ごしたこれまでの数ヶ月間思っていたのと同じ事を心の中で呟きつつ、昨日、私は一路エドモントンへと車を走らせていた。

もちろんユニクロがエドモントンにオープンしてくれた事も、コロナ禍の最中にあってもお店を開いていてくれる事もとても有り難い。値段が日本と比べて高いとは言っても、ジーンズなどは一旦買ってさえしまえば最低1年は履ける物。細かい事は気にせずに買えばいい。

ところが値段以外にも私がカナダのユニクロではジーンズを買いたくない理由があった。それは裾上げ。裾上げの為に店員とやり取りしなければいけないのを非常に億劫に感じていた。普段から英語に強いコンプレックスを抱える私は、「裾上げ?そんな事を英語で説明するのは面倒臭い」としか思えなかった。

それでも実際にその時がやって来ると、何ともあっけなく、簡単にやり取りが済んでしまった。何年にも渡ってずっと極力避けようとしていた事のはずが、あまりにもシンプルな会話で終わってしまい、一体自分は何をそんなに恐れていたのだろうと思う。

私だって全く英語ができないのではないから、裾上げしてもらうのに説明すらできない訳ではない。「hem」や「alteration」なんて単語を上手に使えなくても「shorten」と言えばいいのだし、何なら「cut」だけでも充分相手に伝わるだろう。ただ、単語どうこうではなく、裾上げをお願いする場面を経験した事が無いという理由だけで、そのコミュニケーションを取るのがとにかく億劫だったのだ。

幸か不幸か、私はカナダに移住して来る前に他国で20年以上生活していたのもあって、母国語である日本語以外に、もう1つ別の言語を生活上不自由無く使う事ができる。そのせいで、英語で人とコミュニケーションを図る際にどうしてもその言語を使っている場面と比較してしまい、スムーズに行かない事に対して心底嫌気が差してしまう。使い始めた時の年齢が違い、使っている年数も違う以上、当たり前の事に過ぎないのに、こればかりはどう自分に言い聞かせようにも心がなかなか聞いてくれない。

ところが今回コロナが発生した事によって、ずっと頑なだった私の心も「折れない」訳にはいかなくなってしまった。これまた幸だったのか、それとも不幸だったのか。

1つだけ確かな不幸を挙げるならば、裾上げを依頼したジーンズが当日には仕上がらなかった事だ。もしかするとユニクロもコロナ禍の影響で人員削減を進めていたりするのかも知れない。まあ今回は運よく定価が50ドルのジーンズを20ドルで購入できたのだし、感謝の気持ちをもってまた明日受け取りにお邪魔させて頂こう。

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