コロナ禍が複雑に変えてしまった帰国準備

海外に暮らして人生の半分以上にもなれば、一時帰国とは言ってもすっかり慣れたもので、大して気合を入れて準備する必要など無かったはずだった。ところがコロナ禍はそんな「習慣」すらも完全に変えてしまった。

中でも移動の手段を手配するのには特に頭を悩ませられる。飛行機のチケットがとにかく高いのだ。高い中で少しでも安く買うのにはまずとにかく早めに行動を起こさなくてはならない。そして多少遠回りになってもルート上融通を利かせたり、往路復路それぞれの日程を1日ずつずらしながら最適の組み合わせを探すような工夫も必要になる。

結果として私が今回の帰国に選んだのが、陸路でアメリカに入ってデトロイトから電車でシカゴへと移動し、シカゴの空港からトルコのイスタンブールを経由して羽田まで向かうルート。乗り継ぎの時間なども含めれば日本までまるまる2日かかってしまう。

そうしてまでチケットを入手してもまだ万全とは言えない。北米から、ヨーロッパからを問わず、現在日本へ向かう便で予約がキャンセルされる事案が多発しているらしい。航空各社が日本政府によって設定された毎日の入国人数制限を上回る予約を受けていたせいなどという話も聞くが、実際のところどうなのかを知っているのは航空会社だけで、その影響をもろに受けるしか無い乗客はあまりに悲惨だ。

今回私が利用するターキッシュエアラインズ(トルコ航空)については、幸いこれまでにそのような話は聞いておらず、羽田便も毎日正常に運航されている様子であっても、他の多くの人が遭遇しているような不運を自分なら絶対に免れるなどとは言えない。だから帰国を来週に控えた今となってもまだ安心はできないのだ。

予約が急にキャンセルされてしまうのを余計に不安にさせるのは、帰国に合わせてピンポイントで済ませたその他の準備までもが同時に乱されること。日本入国に際しその提出が必須であるコロナウイルスの陰性証明を取得する為、私も既に当地でPCR検査の予約を入れており、検査費は現行のレートで日本円に換算すれば1万5千円もするのに、予定通りに飛べなくなってしまえばそれだけのお金を無駄にすることにもなりかねない。

何より怖いのは、改めて検査の予約を入れようにも既に埋まってしまっているような場合をどう想定しようにも想定のしようが無いこと。どれだけ前もって近隣の検査機関を調べていても、必ずしも検査を受けたい時に受けられるとは限らない。日本が指定する陰性証明書のフォーマットへの記入が求められているのも、このようなケースをより面倒な事態へと導く要因になる。このフォーマットは曲者で、 パスポート番号の記入や担当医師のサインが必要になったりと、どこの検査機関でも対応してくれる訳ではないからだ。

事前にできない準備もある。例えば日本到着日。私のケースでは夜7時過ぎに羽田に到着し、その場で改めてPCR検査を受けさせられ、結果が出て空港を離れられる時間によっては同日中に帰宅できない可能性がある。だからと言って先に空港周辺でホテルを予約したりしてしまえば、必要無くなったとしても当日にキャンセルするのは難しい。結局、必要であると分かったその時、つまり日本入国後に初めて手配する他無い。

同様に、運よくその日のうちに帰宅できるとなった際の空港からの移動手段についても、そうしてようやく切符を買える訳で、前もって予約を入れられなかった為に既に満席になっているかも分からない。レンタカーを借りたくても、今回調べてみると日本のレンタカー料金は異様に高く、実家に戻りさえすればいつでも運転できる車があるのに、それだけの大枚を叩いて別に車を借りる理由などあるとは思えないし、大体空港でも遅い時間まで営業しているレンタカー屋さんは見当たらなかった。

2年振りの折角の帰国だと言うのに、コロナ禍によってすっかりそのハードルを上げられてしまった感があるのは否めない。わずか10日ばかりの日本滞在ではあるものの、その間にどうにか行きたいと思っていた人間ドックにしても、飛行機すらいつキャンセルされてしまうか分からない状況下では予約だって入れられない。

今回ばかりは仕方無いと潔く諦めて、実家でのんびりと過ごす他無いのだろう。考えようによっては、それもそれできっと悪くはない。カレンダーをスケジュールで一杯にして忙しく過ごすより、実家でお茶でもすすりつつ、ここ2年間なかなか話して来られなかったカナダでの生活振りでも報告しようか。そう、折角の帰国なのだから。