「ひとりごと」

オススメのダシガラ

海外生活歴二十八年、内カナダ在住七年半、「半人前」以下四十代のホンネ。

あと2年もすればとうとう30周年を迎える私の海外生活。

18で中国大陸へ渡り、30になった年はマレーシアで暮らし、翌年にはまた大陸に戻って、その後更に香港での生活を経てから、齢39にしてカナダに移住して来た。

それからもう7年半の月日をこの国で過ごしてはいるものの、いかんせんやって来たのが遅く、年齢的にも経験できることには当然限りがあり、いまだに「半人前」と自分を評価するのさえ憚られてならない。

半人前にもなれていないと自らを評価しているのは、やはり以前また別の国で長く暮らし、その国の言葉を不自由無く話し、社会にも融け込むことができていたせいでもある。下手に比較対象があるが故に、自身の現状に対して余計に不甲斐なさや物足りなさを感じてしまうのは至極自然なことだ。

「年齢なんて関係無い」

「自分次第でどうにでもなる」

そう言ってくれる人が居て、無論有難くもあるのだが、過去にどれだけの時間をかけてようやく一つの外国語を話せるようになったのか、一つの国で満足に生活できるようになったのか、その過程を誰よりもよく分かっている私だからこそ思うこともある。

私だって何も初めからこれっぽっちの意気込みも無くしてカナダにやって来た訳ではない。それまでの生活で使い倒して来た中国語ほどまでとは行かずとも、ある程度納得が行くぐらいは英語が話せるようになろうという気概はあった(と思う)し、社交的に多くの人と触れ合い、積極的に多くのイベントに足を運ぶつもりでもいた(と思う)。

それでもこの7年半を経て至った答えは、

「口で言うほど簡単じゃない」

以前できたのなら今回だってまたできるはず、と思いたいのはやまやまでも、物事がいつも同じように進むはずも無かった。外国人に対する好奇心を隠さずに話しかけて来る人などここには居ないし、私自身の体力や気力だって到底昔のそれには及ばないから、人と繋がる機会自体が生まれないという結果に落ち着いてしまうことになる。

カナダに来た途端に「ガムシャラにチャレンジしなくてはいけない」という強迫観念に駆られたのだって、単に何もかもが新しく見えて、その全てを受け入れ、全てに慣れなくてはいけないと考えてしまったからかも知れない。

実際のところ私自身が生まれ変わった訳ではないし、突然子供のような吸収力を取り戻した訳でもない。日々の生活の中でそういったことを実感として覚えられたのも、それまでに積み重ねてしまった年齢と経験が悪く言えば邪魔をし、よく言うならブレーキをかけてくれたせいで、結果として、そこで立ち止まったり考えたりする時間を与えてくれた。

明らかに人様に劣る自分を許し、その状況に甘んじる自分を許すのは簡単ではなく、そんな自分がどのように見られているのか全く気にならなかったと言えば嘘になる。

それでも自分があれもこれもできないという現実を突きつけられた以上は、その状況で下手にあがき続けるよりもう仕方の無いことだと諦めてしまった方が精神衛生的にはよかったのだろう。

そうしてただの高望みからより現実味のある目標設定をするように変わり、今の私は自身の不甲斐なさも、物足りなく感じていることについても、何だかんだ言いながらおおよそは許容できてしまっているのだと思う。

だからこそ、最近このブログを見た方々から直接のご連絡が届くようになったことにはどこかで戸惑いも覚えている。

特にこれからカナダにやって来る予定の方などは、まだ見ぬ景色に希望や期待を抱きつつも、やはりどこかに不安を感じるからこそ書いてくれたメールなのに、私はその不安を打ち消してあげられるだけの何かを持たず、逆にそれを増幅させてしまうような回答ばかりが自然と頭に浮かんで来てしまう。

もっと若い頃からこの国で生活していたら、或いはこの国で20年も30年も生活していたら、もしかするといい答えができるのかも考えたところで、残念ながら私はそのどちらにも当てはまらない。

無駄な経験など無い、などという言われ方がこの世の中にはあるけれど、経験せずに済むのなら経験しない方がいいことは確かにある。一旦経験してしまえばもうその事実を覆すこともできない。そういったことを少なからず経験し、のらりくらりと暮らしながらもその影響を免れないでいる私の「小さな後悔」は数知れず。

それを後悔という言葉で表現しなくても済むようになるまでには、また別に多くの経験を積み重ねたり、記憶の片隅へと追いやられるのを待ったりしなくてはならず、いずれにしても結構時間のかかるものだ。

そう分かっている以上、カナダの国籍まで取得し、今後もずっとこの国で暮らして行く私はそれでよくても、これからやって来るつもりで居る人様にはやはり正直に自分なりの考えを伝えようと思う。

非現実を楽しめる「夢の国」に行きたいのならディズニーランドがちょうどいい。カナダには現実しか存在しない。まあ私自身はそのカナダで生活していて「半人前」のこんな日々でも結構悪くないんじゃないかと思い始めているのだが。