自意識過剰で自己肯定感も高めなカナダ人諸君

「日本人」としての私と、「カナダ国籍者」としての私。

どちらも私であることに変わりは無くても、後者のグループに属する者の視点からカナダ人を評価することはどうしても難しい。

前々から感じていることであるとは言え、多くのカナダ人が抱く国際社会の中での自国のイメージについては、私はこの国に暮らして8年になった今でも違和感を覚えずにいられない。

海外他国に於いて、少なくとも私個人の感覚としては、カナダ人に対してこれといったイメージなど無いように思うのだが、どうやらそのように考えていないカナダ人は少なくないらしい。彼等に言わせると、「フレンドリー」でありつつ「丁寧」で「礼儀正しい」というのが他国人のカナダ人に対する印象なのだそうで、だからカナダ人は誰からも好かれているのだと主張する。

そんな言論に対して私は、近頃日本にも多い「礼賛系」のテレビ番組を観ている時と同じような気持ち悪さを感じてしまう。では彼等が一体何を根拠にそのような主張を展開するのかを自分なりに考察したところ、そこにはカナダ人がアメリカに対して抱くコンプレックスが一部原因となっている気もするのだ。

経済、政治、軍事、学術等々、いずれの分野でも世界に及ぼす影響力の違いは明らかであるのにもかかわらず、同じ言語を話し、地理的にも隣国同士。故にいつだって一緒くたにされがち。こうした点は普段カナダで生活する分には困らないし、逆にそのような状況を甘んじて受け入れている感があっても、一旦海外に出るとしっかりと一線を引きたがるのがカナダ人。

海外に出た時にアメリカ人だと勘違いされたくないカナダ人は、CANADAの大きな文字が入った服を身につけたり、わざわざカナダの国旗のワッペンを縫い付けたバックパックを背負っていたりする(単純に彼等自身のカナダ愛を表現する為の場合もあるが)。

確かに諸外国でのアメリカ人観光客に対するイメージはあまりよくない。アメリカの常識こそが世界の常識とでも勘違いしているかのような態度を見せられたり、英語であまりに無遠慮に話しかけられたりすれば、当然誰だって嫌な気分になるだろう。その上どこから来たのかと聞かれれば「カリフォルニア」とか「ニューヨーク」などと答えるのが普通だと思ってしまっている人達だ。私も個人的な経験を踏まえると、そんな集団からは一線を引きたくなるカナダ人の気持ちも理解できてしまうと言う他無い。

だからと言って、カナダ人が本当に「フレンドリー」で、「丁寧」、そして「礼儀正しい」のか。アメリカ人を比較対象にその点を論じるのであれば、そんな彼等の言い分もまあ分からなくもない。ところが他国人は必ずしもカナダ人とアメリカ人を比較したりしない。万一比較してみたところで、アメリカ人よりはマシだから「丁寧」とか「礼儀正しい」などと捉えてくれる筈もない。

実際のところ、カナダ人が「polite」という英単語を使って自らを評価するのを聞くと、日本語で「丁寧」や「礼儀正しい」と訳すこと自体が間違っているのではないかと疑ってしまいたくなるぐらいだし、何よりこれといった特別な印象を持つまでカナダ人という存在を意識している他国人などほとんど居ないのが現実ではないかと思う。

ここまでに書いたことは日頃から感じていることながら、なぜまたそれを改めて書き起こすことになったのか。そのきっかけは次回の帰国時にどのようなルートを取ろうかと考え、調べものをしていた時に遭遇してしまった、とあるカナダ人がネット上に残した言葉にあった。

まずその前段階に於いて、北米東海岸在住の中国人が帰国の費用を安くあげたい時にはエジプト航空を使うとの情報を見つけたのだが、去年の秋以降は状況によってその方法が取りづらくなったのだそう。と言うのも、以前であればエジプト入国に際してアライバルビザが取得できていたカナダ国籍者に対して、現在ではそのルールが適用されなくなったらしい(日本国籍や中国国籍であれば変更は無く、引き続き到着した空港でビザを申請、取得できる)。

そこで、既に日本国籍を失い、カナダ国籍となった私のケースではどのようにしてエジプトビザを申請すればいいのだろうかと、また情報収集をしていた時に見かけたのはこんな言葉。

“It seems like a lot of work and cost compared to those in other countries who simply pay $25.00 US upon arrival in Egypt to obtain their visas… and it feels quite unfair. After all, Canadians are known for being friendly and polite… I mean, who doesn’t like Canadians?”

credit: Tripadvisor – Complete Instructions for Canadians applying for Egypt Visa

つまり、他の国の人がたったの25米ドルでいとも簡単にアライバルビザを取得できるのに、カナダ人は事前に時間も労力もお金もかけてビザを取らなくてはいけないのはアンフェアで、フレンドリーで且つ礼儀正しいと評判のカナダ人がこのような待遇を受けるのはおかしいと感じるらしい。その上で「カナダ人を嫌いな人がどこに居る?」とまで言い放っている。

いやいや、その自信は一体どこから来るのか。大体、そんなに人の目が気になるぐらいなら、まずはもっとフェアに自己評価をすることから始めようよと思うのは私だけなのだろうか。他の言語で書くならまだしも、英語で書けばそのバカさ加減は全世界に晒される。同じカナダ国籍の一人として、こういったことをネット上で書かれるのは恥ずかしくてたまらない。そんな面倒が嫌なら行かなければいいのだ。どうしても行きたいのなら余計なことは言わずにビザを取ればいい。

日本人という単一民族で成り立っている国であると当たり前のように考えている人が多い日本とは違い、カナダは世界中からやって来た移民で構成されていることもあって、必ずしも「カナダ国籍=カナダ人」と捉えないことに比較的寛容なのがこの国の社会であり、私自身もそんな自由を有り難く享受させてもらっている。

それでも一旦国の外に出てしまえば手にしているのはカナダのパスポートであり、この国のメインストリームとは異なる文化的背景を持っていても当然ながらカナダ人に見られ、カナダ人としての対応を受けることになる。同時に私だって日本はもちろん、カナダのイメージも傷づけないような行動をとるように心がけているとは言え、どこかの誰かがカナダ人は誰からも好かれているなどと放言しているせいで要らぬプレッシャーを受けるのは全くもっていい迷惑だ。

最後に話をまたエジプトに戻して。空港内で乗り継ぎをするだけ(入国の必要無し)であればビザは不要なのだが、私が計画するように中国へと乗り継ぐ場合、もしくは日本(成田)へと乗り継ぐ場合では20時間近い待ち時間が発生する為、それなら折角だからピラミッドまで足を伸ばしたり、ナイル川のほとりでまったりしてみたいところ。

その願望はそれほど強くなかったにしても、いつかはエジプトを訪れてみたいという気持ちだけはあったから、もしそんな機会が巡って来たなら、直接オタワやモントリオールにあるエジプト大使館(領事館)まで出向いてビザを申請するのだって私は全く厭わない。最近では出入国スタンプさえ押してもらえない国も増えた中でシールのビザを貼ってもらえて、その結果アフリカ大陸初上陸まで果たせるなんていいことづくし。あとはそれだけの長いフライトと観光をこなす体力と気力があるかどうかだ。