北米での旅と言えばやはりその国土の広さもあって飛行機が主流で、電車やバスを使って移動をするのはあまり現実的な選択ではない。それでもニューヨークとボストン間のように、距離が比較的近く、人流も便数も多い都市間であればまだ利用価値はあり、カナダであればトロント、モントリオール、オタワの三都市を結ぶ路線でも同じことが言えるかも知れない。
それに対して今回私が利用したのはデトロイトからシカゴへの路線。正確にはミシガン州ポンティアック (Pontiac) から途中デトロイトを経由してシカゴ・ユニオン駅まで向かう電車で、「ウルヴァリン号 (Wolverine)」なる名前を冠し、1日3往復が運行されているようだ。
デトロイトからシカゴまでこの電車を利用すれば5時間半を要するから、どれだけの利用価値を見出せるのか、その判断は人によってまちまちだろう。飛行機であれば1時間から1時間半程度で移動できる距離だ。おまけに便数も飛行機に比べて圧倒的に少ないし、定時運行率など算出するだけバカらしく思える程時間も不正確。当然ながら日本と比べるべくも無い。
それにもかかわらず今回私が電車を利用しようと思い立った理由は2つ。とにかく時間には余裕があったこと。そして何より、日本へ帰国するのに使う航空券の購入に既に大枚を叩いてしまった分、その他の部分ではできる限り出費を最低限まで抑えたかったことにある。実際早く購入しただけあり切符は片道40ドルとかなりの安価で入手することができた。
ちなみに、出発数日前に改めて同じ日程で調べてみたところ、料金は倍以上の96ドルにまで跳ね上がっており、完売も間近といった具合だった。乗車当日にも車内のアナウンスで切符が既に売り切れていることを伝え、席には荷物を置かず、途中駅から乗車してくる別の乗客の為に空けておくようお達しがあった。それだけ多くの人が実は電車を利用しているということでもある。
前述のとおり、北米で電車を利用するのであれば基本的に定時性などを求めてはいけない。それはアメリカもカナダも同じだ。今回利用した電車にしても、私の旅の起点であるデトロイトから決して遠くない駅が始発のはずなのに、デトロイトに到着した時点で既に20分以上は遅れてやって来た。
それでいながら、駅員も、電車のスタッフも、そして乗客も、誰一人定時運行に貢献しようとか、協力しようとかする様子をまるで見せない。みんながみんな、とにかく自分のペースを貫くのみ。もちろんそれだけで20分も30分も遅れる訳ではないだろうから、ハードの面を更に強化しなければいけないのも事実だ。それにしてもね、と思う。かくいう私もカナダに暮らして6年、今更そんなことで驚いたりはしないけれど、ギリギリのスケジュールに電車の利用を挟むのだけは絶対おすすめできない。
さて、ずっと20分程度の遅れを保ち続けていたはずのこの電車、どうやったのかは分からないが、終点シカゴ・ユニオン駅にはほぼ定刻で到着した。つくづく気まぐれなものである。
価格や定時性ばかりに重きを置いてここまで書いて来てしまったが、この辺りでその乗り心地にも触れておこう。これは路線であったり、使用されている車両にもよりけりながら、少なくともこの回私が利用したデトロイトとシカゴを結ぶ路線については乗り心地はなかなか良かった。飛行機などと比べたら席の幅はずっと広く、足元にも充分過ぎる程の余裕がある。かつて利用したことのあるニューヨークからモントリオールへの路線でも同様だった。つまり、元々スケジュールに融通が利き、定時性に目をつぶることができるのなら、アムトラックはなかなかの利用手段であると言うことができるではないかと思う。
なお、この路線については沿線に特筆すべき景色は無い。そんな場合でも、悪くない乗り心地のおかげもあり、気持ちよく惰眠を貪らせてもらえるのは有り難い。
11 Amtrak route with the most breathtaking views – Lonely Planet
あと1つ、アムトラックを使うメリットに挙げるべきは大きな手荷物も無料で持ち込める点。大手の航空会社ですら荷物1つを預けるのに別途料金を支払うことが当たり前になっている昨今、アムトラックなら大きなスーツケースでも車内に持ち込めるし、そういった荷物を置く場所にもきっと困らないだろう。