20ヶ月振りに開放された米加間の陸路国境

注:後にオミクロン株の流行による感染拡大を受けて状況に変化がありました。ここに記述のある内容は最新の状況を反映していません。(2022年2月3日追記)

つい先日の11月8日、カナダとアメリカの陸路国境が開放された。

個人的にはアメリカとの国境からはあまりに遠い場所に住んでいることもあって、20ヶ月振りにようやく開放されたという感覚は無かったものの、国境地帯に住み普段から頻繁に両国間を行き来していた人、家族や恋人が国境の向こうに住む人にとっては決して小さからぬ問題だったのだろう。当日もその時を待ちきれない人々の車列が国境地帯に自然発生したらしい。

私はアメリカに行く必要があったところで飛行機を利用していたはずで、元々空路でのアメリカ入国は可能だったから特に気にしてもいなかった。ところが今後の事情はまるで異なる。国境地帯に住む人々の仲間入りをするのだ。

カナダ入国には依然陰性証明書の提示が必須

先の8月にはアメリカ国籍者と永住権保持者に対して陸路での入国を許可していたカナダ。遅れること3ヶ月、アメリカ政府も入国制限の緩和を決定したことにより、条件さえ満たしていればカナダからアメリカへの陸路移動も同様に可能になった(国籍を問わず)。

実は陸路を経由するアメリカ入国の条件は空路のそれに比べて緩い。

空路でアメリカに入る場合には2度のワクチン接種を証明するものと陰性証明書が求められるのに対し、陸路ならワクチンの接種さえ済ませていれば陰性証明書は必要無いことになっている。これまでにカナダでは12歳以上の住民の85%近くが2度の接種を完了していることから考えると、大半の人は何の問題も無く、目的も問われずに、アメリカへの入国が可能になったと言える。

しかしカナダへの入国条件はアメリカとは異なる。空路であるのか、陸路であるのかといったルートに関係無く、72時間以内に受けた検査で取得した陰性証明書の提示が必須で、このルールは外国人旅行者のみならず、カナダ国籍者やカナダの永住権保持者にも適用される(その後条件付きで陰性証明書の提示が免除されることに)。

つまり、私のようにカナダ在住者が何の目的であれ陸路経由でアメリカに行く場合、アメリカ入国時にはワクチンの接種証明を提示するだけでいいところ、カナダに戻って来る時には逆に入国条件がより厳しいというどこかアンバランスにも思える状況ができあがっている。それさえ提出すれば、日本とは違ってその後の隔離が不要になるのはもちろん有難いのだが。

カナダ政府に対し規制緩和を求める声も

カナダ政府により定められた入国制限には当然ながら異を唱える者も居る。アメリカと国境を接する地方自治体の首長が共同して規制緩和を求める声を発したのはつい最近のことだし、同様の声は旅行業を始めとして、カナダとアメリカ両国の経済界からも上がっている。

中でも興味深いのは、一部の医師が専門家の見地から規制の不合理性についてメディアで語っていることで、国境地帯ではアメリカに日帰りで出かける人が多いのに、それでも72時間以内の検査結果で陰性を証明できるよう求めるのはおかしいと彼等は言う。

日帰りでアメリカに行くような場合、アメリカ入国後に検査を受けたところで結果が当日中に得られない可能性があることを鑑みて、カナダ政府は72時間以内のものであればそれがカナダ国内で発行された陰性証明でも構わないとしている。つまり、

  1. カナダ国内で事前に検査を受ける
  2. 結果得られた陰性証明を持ってアメリカに行く
  3. カナダに再入国する際にはその証明書を使う

ということが許される訳で、確かにそれでは何の為の入国制限なのか分からない。

同時に忘れてはならないのが、感染直後で且つ無症状の場合、最も精度が高いと言われるPCR検査を受けてもその正確性には疑問が残る点だ。

例えば、元々非感染者であったカナダ在住者がアメリカに日帰りで出かけ、現地で合間を縫って検査も受け、運良く同日中に陰性の結果をもらってカナダに戻れたのなら、本当にこの人はアメリカに滞在した数時間の間に感染しなかったと言えるだろうか。答えはもちろんNoだ。それでも検査結果は陰性だからカナダにはスムーズに入国ができるし、隔離も必要無いと判断される。実際には感染していても本人は知らないし、感染当日に受けた検査結果が陰性であればなおさら自分が感染しているなどとは思いも寄らない。

そのように言われてみると、海外からの旅行者に求めるのならともかく、アメリカで数時間滞在しただけのカナダ在住者にも陰性証明の提示を義務化するのにどれだけの意味があるのかと疑いたくもなる。

高いPCR検査費に結局は制限される人流

カナダ政府がアメリカとの陸路国境でこのように曖昧な入国制限をかけるのは、即ちコロナウイルスの完全な流入阻止を目指すより「ウィズコロナ」を選んだことの証左であり、同時にワクチンの接種率が向上したが故の結果とも言えるかも知れない。

また、この曖昧さには政治的要素も多分に含まれているようにも見える。コロナの流入を防ぐ為の方策であるように見せつつ、長く続いた移動の制限に不満を溜め込んだ人々の「ガス抜き」をも可能にすれば、これまでギリギリでの政権運営が続いて来た与党にとっては好都合だろう。

ところが現状人々の新たな不満の種になっているのがPCR検査の高額な費用。濃厚接触者や症状のある人なら無料で受けられる検査も旅行目的となると公的保険ではカバーされず、1度につき150ドルから250ドルを個人が負担しなくてはいけない。家族連れでの旅行であったり、国境地帯に住む人が頻繁に出かけるのにその都度検査を受けなくてはいけなかったりだと合計金額は小さくない。

そのような状況が続いても私なら「自分は海外からの移民だし、政府がそう決めたのなら仕方無い」と諦めるなり、当分はアメリカに行くのを断念したりしても、その他大勢の自己主張の強い人々がそう簡単に引き下がるだろうか。国境が再開されて間も無い今ならまだしも、暫くすれば「結局何も変わっていないじゃないか」と怒りを招き、また政権批判が始まるのが関の山だ。「ウィズコロナ」に舵を切ったなら切ったで、より科学的根拠に基づいたルールの設定が必要なのではないかと思う。

かく言う私自身も実は来月以降に何度か陸路を経由してアメリカに行かざるを得ない用事があり、検査にかかる出費を考えると今から既に頭が痛い。

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