週明け月曜の朝に突然届いたニュース(実際には前夜には発表されていたらしい?)。
これまで若年層では血栓の形成を誘発する恐れがあるとして、カナダ全土に於いて55歳を超える人のみにその接種が限定されていたアストラゼネカ製ワクチン。ところが今回当地アルバータ州では40歳以上に対象が拡大される事が決定した。つまり私も希望すれば接種を受けられるようになったのだ。
そのように聞けば一気に歳を取ったかのようで微妙でもあるのはさておき、問題は打つのか打たないのか。ワクチンの接種自体は自分の番が回って来さえすれば受けるつもりではいたものの、どのワクチンを打つのか選択ができる環境*にあって、今アストラゼネカのワクチンを打つのか、それとも他のワクチン**を打てる時が来るのを待つのか。
実は私は全く悩まなかった。政府の発表を目にした時点で、それならすぐにでもアストラゼネカのワクチンを打ってもらおうと思った。
ワクチンさえ打てば何もかもが終わりを告げるのではない事は分かっている。コロナ禍がいつ収束するのかなんてもう誰にも想像すらつかない。だから皆がコロナ疲れを感じ、いつの日か解放される事を願ってやまないし、その為には今自分にできる全ての最善の決断を重ねて行く他無い。その上でワクチンの接種は大きな一歩だと私は考えている。
*少なくともアルバータ州では、どの接種場所(接種センター、薬局等)でどのワクチンが提供されているのかウェブサイト上で公表されている為、希望するワクチンを提供している場所に行って接種を受ける事が可能。
**現在カナダで提供されているコロナワクチンには他にファイザーとモデルナがあるが、供給量が絶対的に不足しており、当地アルバータ州の場合、接種可能となっているのは原則として65歳以上の住民に限られている(先住民や医療関係者、既往症がある人では条件が異なる)。全体に行き渡るのは6月末頃になる予定。
そしてその時がとうとうやって来た。自らがワクチン接種の対象になったその初日の午前中に、ウォークイン(Walk-in、つまり予約無しで先着順に対応する)で接種を受けられるエドモントンの薬局*に早速出向いた。
スーパーの中にあるその薬局は朝9時から開いていて、私が着いたのはまだ10時にもならない頃だったのにもう既に人が並んでいた。10人ぐらいだっただろうか。渡されたフォームに名前、連絡先、ヘルスカードの番号を記入し、既往症やアレルギーの有無等に関する質問に答えると後は順番が回って来るのを待つだけ。15分程度の待ち時間で私の番になり、中に入ったらすぐ注射だ。
*カナダでは予防接種は薬剤師でも打つ事ができる為、わざわざ病人だらけのクリニックや病院に行く必要は無い。
幼い時から注射が大嫌いで、針が皮膚にあたり、そのまま刺さって行く様子を見る勇気などあった試しは無い。ところが今回ばかりは待ちに待ったワクチンで、小さくとも一区切りが付けられるとの思いもあり、その瞬間をこの目にしっかりと焼きつけてやろうと強く決心していたのだ。それなのに、注射を担当してくれた薬剤師さんの腕に隠れて見えず、結局は針が入った時と、ワクチンが体内に流入している時の感覚だけが、一歩前に進んだという印と記憶になった。ちなみに、筋肉注射は痛いとよく聞くけれど実際にはほとんど痛みは無かった。
そして最後には、こんな時にも拘らず不特定多数の人を相手にワクチンを打ってくれている薬剤師さんに、心からのありがとうを伝えてその場を離れた。
離れたと言っても、ワクチン接種による急激な反応があった場合の事を考慮して、少なくとも15分はスーパーの中に居るように言われたので、私はその時間を利用して適当に食材を購入し、無事に時間が経過するのを待って約20分の道のりを運転して自宅へ。
ここまでは至って順調で、副反応と思われるような症状は無くすっかり安心していたのだが、夕方にもなると体がどこかおかしい。全体的に重く、だるいように感じられた。気のせいか?
残念ながら気のせいでは終わらなかった。それから1時間もしないうちに熱っぽく感じられ、実際に測ってみたところ37.2度の微熱があり、更に2時間程経過した頃には38.3度まで上昇。
アストラゼネカのワクチンと言うと血栓症の事ばかりが心配されそうなものの、他にもこうした発熱であったり、倦怠感、筋肉痛、関節痛といった症状が副反応として出る可能性がある事も接種前にはきちんと告知されている。しかしこれらはファイザーやモデルナ等のワクチンを打った場合にも表れる症状だし、実体験としては、それこそ風邪をこじらせて少し高めの熱が出た時と何ら変わる事は無いように思う。
接種翌日の今日については、朝は平熱だったのが、やはり昼過ぎにまた37.5度近くまで体温が上がり、体の節々に痛みを感じるようになった。肩から、腰から、膝に、手首まで、とにかくだるくて仕方が無かった。それも解熱剤*を飲み、昼寝をした事でかなり落ち着き、夕方になる頃には随分ラクになったようだ。
ただ、副反応は2回目の接種時に比較的多いそうで、1回目から見られるケースは割合としてかなり低いらしい事を聞くと、次の接種時もっとつらいのかと今からもう憂鬱になる。まあそれも2回目を受けられたらの話で、今回接種対象を広げた事もあってアストラゼネカワクチンの州内に於ける在庫が減少傾向にある中、主要生産元であるインドが現地での感染拡大を理由にワクチンの国外輸出を止めている為、次いつカナダにワクチンが届くのかも分からないとの事。
*アストラゼネカのワクチン接種後の副反応で発熱症状がある場合、解熱剤を飲んでも大丈夫なのかが気になりヘルスリンクに電話で確認したところ、担当の看護師から「タイレノールやアドビルのような市販薬を服用しても全く問題無い」とのお言葉を頂いた。電話が通じるまでに50分も待たされたが、専門知識のある人からアドバイスをもらった事で安心して薬を服用できたのはやはり有難い。
州の発表に拠れば、アストラゼネカワクチンの有効性はファイザーやモデルナ製のものと比較すると低く、2回の接種を完了した場合で60-70%に留まるものの、万一感染した場合にも80%近い割合で重症化の予防効果が期待できるそうだ。1回目の接種を済ませた時点でこれらの確率がどの程度まで下がるのか分からないのは事実ながら、副反応だけで結構つらい思いをしたのだから全く効果が発揮されないなんて事も無いのだろうと思うし、そう願う。
私が接種を受けた日の午後、州の首相が記者会見上で、接種対象の範囲を拡大してすぐに予約が劇的に増えている事に触れ、当日朝8時に予約受付開始後僅か2時間半で過去1週間全体の予約数を上回った事を発表している。今回の範囲拡大で恩恵を受ける40歳から54歳までの年齢層に属する人は州全体で57万5千人に上り、私はこのグループに自らも社会も守ろうとする意識のある人が多く存在している事に安堵しただけでなく、今後に対してもう少し希望を持てるようになった。そして首相が人々に記者会見で感謝の意を表するのを目にし、根から単純な私は、自分もようやくこの社会に小さな貢献ができたと喜びを感じずにはいられなかったのだった。