「オーロラの聖地」イエローナイフにまで迫る山火事

昨晩のこと、カナダ各地で被害を出している山火事のうちノースウエストテリトリー(北西準州)で広がっていたものが、とうとうその中心都市であるイエローナイフにまで迫り、準州政府により住民に対して避難命令が出されたというショッキングなニュースが入って来た。

ハワイのマウイ島で広がった山火事が現地社会に甚大な被害をもたらしているとのニュースが伝わってまだ数日、今度はこちらカナダの山火事についても気になるニュースが入って来た。

カナダ国内メディアの報道によれば、あの「オーロラの聖地」とも呼ばれるイエローナイフのすぐ近くまで火の手が迫っているのだそう。

今年これまでにカナダ全土で発生している山火事は5753件(2023年8月16日時点)で、件数上では1989年の10998件には及ばないものの、焼失面積は1368万ヘクタール(同上)と、近年でその数字が最も大きかった1995年の711万ヘクタールの倍近くになっている。

ちなみに、1368万ヘクタールを平方キロメートルになおすと13万6800平方キロメートルとなり、つまりは日本の国土面積(37万7973平方キロメートル)の約36.2%にもなる広大な土地を、今年に入ってからのわずか8ヶ月半の間に焼いてしまったことになる。

参照:Fire Statistics – Canadian Interagency Forest Fire Centre Inc.

その間に避難を迫られた人の数は7月上旬の時点で16万人にも達しようとしていたそうで、その中には、5月に発生したノバスコシア州での山火事のように、避難こそできても家を焼かれてしまった人は少なからず居た。

そういった報道を多く見て来ていたのにもかかわらず、イエローナイフ市全域の住民に対して避難命令が発令されるというニュースを見ると驚かずにはいられなかったのは、特に外国人にとっては(私は国籍上では既にこの国の民になっているが)この町がカナダの象徴的存在の一つであるからなのかも知れない。

実際に避難命令の内容に目を通してみると、ニュースで見る以上に今回の事態の重大さを強く感じさせられた。

何より16日(昨日)に発令されたばかりのはずが、車で避難するというオプションを持たない人の為に、商用機とカナダ軍の輸送機によるイエローナイフ脱出便を翌17日(今日)に運行するとしていたのには、それだけ急を要するのだということが見てとれる。

また、荷物は機内に持ち込めるサイズのものまでに制限し、持つべき重要な荷物として(5日分を超えない)着替えに薬、充電器や身分証明書、それに銀行口座の記録など具体的に例を挙げているのを見ると、私にまで現地の緊迫度がひしひしと伝わって来て怖いほどだった。

そしてこの避難命令の最後に記されていたのが次の内容。

“Residents who choose not to evacuate should understand they stay at their own risk. Responders may not be able to come to your rescue if it is unsafe to do so.”

つまり「避難命令に応じない住民はあくまで自己責任でイエローナイフに留まるものであり、如何なる非常時に於いても、その対応に危険が伴うと判断された場合、救急や消防が出動できない可能性があることを理解しなくてはならない」ということ。

この一文が強調されることなく、その他の内容と変わらぬフォントサイズで表示されていたのは、それを読む人々が「Order(命令)」とは何たるかを理解しているからなのか。そう、これは日本で言うところの「勧告」のように甘っちょろいものではないのだ。

一時期はここウィンザーもオンタリオ州東部やケベック州から流れて来た煙で町全体が覆われたものの、ほんの数日でまた青い空を取り戻していたから、山火事が全国各地で発生している事実にもあまり現実味を持って捉えられていなかった。そんな時、私に危機感を与えたのがマウイのラハイナで起きてしまったこと。同じようなことがカナダでは起きないだなんて誰にも言えない。

今はただイエローナイフが無事であることを祈っている。