冬のカナダ横断引越の旅(2度目の今回はアルバータからオンタリオへ)

長距離トラックの運転手はもっと敬われてしかるべきだと、私は今感じている。

3年前に続いて、何故か今回も冬に車を運転して引越しなければいけなくなった私。前回は東から西へ(ニューブランズウィック〜アルバータ)、そして今回は西から東へ(アルバータ〜オンタリオ)、元々ルートに選択肢などほぼ無いに等しいカナダだから、走る方向こそ違えど通る場所は大体同じだ。

そこにはカナダでも雪深い地方が含まれるものだから、まだ計画をしている段階から天候に恵まれるよう願わずにいられない。今年は特にラニーニャの影響で寒くなると言われていたし、出発を間近に控えた頃にはアルバータでも既に結構な降雪量を記録していて私も内心不安を覚えていた。

結果から言えば、道中これといった困難も無く、無事に5日間の行程を完了することができた。でもそれこそまさに結果論というもので、冬のカナダを長距離運転するのに雪や氷の心配をしない方が無謀であって、実際エドモントンでは20kmばかりの道を走っただけで、スリップして路肩に乗り上げた車を4台も5台も見るなんて事は日常茶飯事だった。

だから北米各地を駆け回る超大型トラックの運転手などは、体力が必要なのは元より、精神だって相当すり減らされることだろう。私達の日々の暮らしはそういった人達に支えられているという事実に今回改めて気づかされ、今のような非常事態下に於いても物流が滞りなく保たれていることに感謝した。

それは各地で泊まらせてもらった宿泊施設にも言えることで、このコロナ禍でまだ誰もが極力人との近距離での接触を避けたいと敏感になっていた頃から、もうすっかり慣れっこになってしまった今に至るまで、変わらずいつもどこかにあって暖かい部屋とベッドを提供してくれている。

引越から1ヶ月が経過した今、その道程を思い起こしつつ書きながらようやくまたそんな気持ちが戻って来ただけで、正直に言えばまたきっとすぐ忘れてしまうのだろうと思うけれど、ここで文字に起こしておくことでいつか思い出せる日が来るかも知れないとの期待を込めておく。

今回の引越で走ったのはアルバータ州のエドモントン (Edmonton, Alberta) 郊外からオンタリオ州・ウィンザー (Windsor, Ontario) までの約3750km。この距離を5日間で走り抜けた。

当初は、サスカチュワン州・レジャイナ (Regina, Saskatchewan)、オンタリオ州・ケノーラ (Kenora, Ontario)、オンタリオ州・シュレイバー (Schreiber, Ontario)、オンタリオ州・サドバリー (Sudbury, Ontario) で1泊ずつする予定でいたところ、荷物の最終整理に時間を要したせいで初日の出発からして遅れ、実際の行程は以下のとおりとなった。

1泊目
ノース・バトルフォード North Battleford(サスカチュワン州)
走行距離:約400km

2泊目
ウィニペグ Winnipeg(マニトバ州)
走行距離:約940km

3泊目
シュレイバー Schreiber(オンタリオ州)
走行距離:約880km

4泊目
サドバリー Sudbury(オンタリオ州)
走行距離:約800km

そして最終5日目は、サドバリーからウィンザーまでおよそ710kmの道程を、途中のトロント市内の高速の分岐点で間違った方向に進んだりと幾分無駄な時間も費やしつつ走り、どうにか無事に旅を終えることができた。

ちなみに、もしアメリカを経由していたならば、走行距離と移動時間、そしてガソリン代のいずれもが大幅にカットできていたはずだ(下図参照)。

ところが引越を目的とする大陸横断で、車に多くの荷物を積んでいる状況では、このようなルートでの移動は考え難いのが現実。アメリカへの入国は嫌がらせかと思うほど厳しい対応をされる時があり、パスポートにイランビザが貼られている私の場合では特にその頻度が高めなのだ。犬も一緒の旅の最中にそんな面倒には遭いたくない。

こうして幾つもの州を跨いで走ってみると気がつくのが、同じ国に居ながらも各地で人々の運転の習慣が大きく異なる点だ。

私がこれまで3年間生活していたアルバータ州では、高速道路の速度制限が最も緩い箇所では時速110kmに設定されているのもあってなのか、スピードを超過してもせいぜいプラス10kmの範囲内に収まっていた気がするし、加えて車の数そのものがそこまで多くない為に車間距離も適度にとられていて、冬場の雪の影響さえ無ければ比較的運転しやすいように思う。

ところがオンタリオ州までやって来ると、流石にカナダ最大の人口を誇る州だけあり道を行く車の数が多く、だからこそ最高速度が時速100kmまでに抑えられているのにもかかわらず、それをはるかに超えるスピードで(超過の度合いはアルバータであれば恐らく捕まるレベル)、車間距離もこれでもかというぐらいにまで詰めて走る人が少なくない。田舎からやって来た者にしてみれば暴走族にでも囲まれて走っているような感覚で、私も常に心と足が緊張した状態で運転していた。実は今もなお完全に慣れたとは言い難い。

だから逆にオンタリオで慣れた人が他州で運転する場合には、取り締まられないようにせいぜい気をつけた方がいい。

もしこんな時期でなければ、もう少し時間をかけてでも、遠回りをしてでも、立ち寄ってみたい場所は幾つかあったのだけれども、運よく天候に恵まれ、路面の状況も悪くなかったが故に、最終目的地へと進むことを何よりも優先した結果が今回の5日間の大陸横断旅行だった。

世界でも第二位の国土面積を誇るカナダで、国内外からの多くの観光客を惹きつける場所は一体どれだけあるだろう?そしてそのうちどれぐらいが、現実的に考えて観光に訪れるのに適した地理条件を備えているだろう?今回辿った道沿いにも多少なりとも興味を覚える場所があり、季節さえよければきっと訪れていたと思う。ところが、いつかその場所だけを訪れる為に、車なり、飛行機なりでまた出かけて行くかと聞かれれば、正直そこまでの思い入れは無いから「コストパフォーマンスが悪過ぎる」と答えてしまいそうだ。

だからもし誰かがカナダで大陸横断旅行を計画しているならば、そして時期の選定上融通が利くならば、私はコロナ禍が過ぎ去った後の夏に旅するよう力強くお勧めしたいと思う。

以前の言葉を繰り返すようだが、ただ走りたいが為に走るのでなければ、つまり「死ぬまでに一度はシベリア鉄道を乗り通したい」的感覚でないのであれば、その他に目的無くしてわざわざカナダを横断するようなドライブを勧めることは私にはもうできない。今回2度目を経験して残念ながらその思いをより強くしてしまった。自分で運転して旅するスタイルならば、ヨーロッパの方が景色も食事も文化も楽しめて断然魅力的だ。

私も次回は純粋に観光目的で、カナダではなく、アメリカ側を横断なり縦断なりしてみたいと思っている。