国境地帯での暮らし カナダ・ウィンザーの場合

アメリカとの国境線沿いに位置するオンタリオ州・ウィンザー。


私がこの町に生活してみて気がついたのは、これまでに住んで来たカナダ国内各都市とは全く違う「国境都市」ならではの特徴があり、その特徴が人々のライフスタイルに決して小さくない影響を与えていることだ。

国境地帯での暮らし。それは国境の向こうにある町ありきでの暮らし。そのように感じられるのは、あくまでも私がここウィンザーに住んでいるからなのかも知れない。

カナダとアメリカの陸路国境が長いとは言っても、国境線の南北いずれにも一定の人口規模を誇る町があるエリアは意外にも多くない。トロントにモントリオール、そしてバンクーバーといったカナダ有数の都市は国境線から遠いと言ってしまうとそれはさすがに大袈裟だが、かと言って「ビタビタ」にくっついているのでもない。

ところがウィンザーは川1本を挟んでデトロイトと向かい合っていて、お互いのダウンタウンを見渡せる程の距離感だ。この広いカナダでもまさに唯一無二の存在と言える。

ウィンザー / デトロイト周辺地図

遠くのトロントより近くのデトロイト

ウィンザーの町から最も近い距離にあるカナダ国内の大都市はトロント。空路と鉄路で結ばれてはいるものの、飛行機を利用すればもちろん安くないし、電車は遅い上に時間通りに到着してくれない。その近郊エリアに住む人であれば様々な便利さを享受することができても、ウィンザーに住んでいる者がトロントから受ける恩恵などはほぼ無いに等しい。だからどうしたって内より外に目が行く。

それこそ遠くの親類より近くの他人みたいなもので、内も外も何も、「血縁」とか「国」を基準にするからそうなるだけのこと。パスポートを持って出かけなければいけないのは事実でも、ウィンザーとデトロイトがただの隣り町同士の関係であるのもまた確かで、トロントなどよりよっぽど身近な存在なのだ。ガティノー(ケベック州)に住む人が橋を渡ってオタワ(オンタリオ州)に行くのも、これと似たような感覚なのではないかと思う。

応援するのもデトロイトのチーム?

私がウィンザーに住んでいて、中でもデトロイトとの近さを最も強烈に思い知らされたのはバスの電光掲示板だった。フロントにあって行き先を教えてくれるあれだが、カナダでよく見られるのが、行き先以外に「MERRY CHRISTMAS」や「HAPPY NEW YEAR」、更には「MASK MANDATE(マスク着用必須)」などといったタイムリーな内容が表示されることで、先日NHL(北米のプロアイスホッケーリーグ)の開催日、そこになんと「GO RED WINGS」の字が並んでいるのを見かけた。

Red Wings(デトロイト・レッドウィングス)とはデトロイトに本拠を置くチーム。当日はトロントでも Maple Leafs(トロント・メープルリーフス)の試合があったにもかかわらず、それよりもレッドウィングスなのかと、納得できるようなできないような、ちょっと不思議な気持ちになってしまった。

トロントのファンが聞いたら怒りそうな話でも、歴史を紐解いてみるとレッドウィングスはNHL参加初年度(当時のチーム名はデトロイト・クーガース)にはウィンザーでプレーしているそうだし、また地理的に言っても、レッドウィングスの現在の本拠地であるリトル・シーザーズ・アリーナは目と鼻の先にある訳で、ウィンザーの人々が彼等を応援するのも当然と言えば当然なのかも知れない。

ウィンザー / デトロイト

テレビもラジオもアメリカのチャンネルだらけ

こちらに越して来てテレビの設定をした時、次から次へとチャンネルが登録されて行くのには驚かされた。エドモントンではアンテナの強度によるところもあるものの、見られるのは7つから8つがせいぜいと言ったところ(ケーブルやネットを経由しないで見られるチャンネルに限れば)、ここで自動検索をかけると30をも超えるチャンネルが登録される。

しかしその大半がアメリカのチャンネルだったのは言うまでも無い。「3大ネットワーク」のABC、NBC、CBSはもちろん、そこにFOXとデトロイト一帯の独立系ネットワークが加わる。同じ言語を共有し、文化的にも密接な関係にあるカナダとアメリカだからいいものの、他のどこかの国であれば文化的侵略だと批判の声が上がりそうな程の勢いで私のテレビを占拠している。

同じ事はラジオにも言える。車でラジオをつけても暫く聞いていないと、それがカナダのなのか、それともアメリカのであるのかが分からない。大抵の場合ではアメリカの局であることが判明して終わるのだが。

ウィンザーとデトロイト間の物理的距離

一般の人がウィンザーとデトロイト間の移動に使うのが、米加間で「最も忙しい国境」とも称されるアンバサダーブリッジと、双方のダウンタウンを直線的に結ぶウィンザーデトロイトトンネル

トンネル入口まで車で3分程の場所に位置する我が家からは、10分もかからずしてアメリカ側の入国ゲートに到着できる。トンネルの全長はわずか1570メートル。時速40キロという制限速度をしっかり守って走ったとしても(実際に守っている人が居るようには思えないが)あっという間に通り抜けてしまう。つまり、アメリカ入国時にゲートが混雑しておらず、オフィサーにあれこれしつこく聞かれたりしなければ、デトロイトのダウンタウンへも車でわずか15分の距離に過ぎないということ。

そんな位置関係にあるウィンザーとデトロイトだけあり、ウィンザー市の交通局がデトロイトまでバスを走らせていたりもする。朝の5時半から夜の0時半までの間ほぼ30分間隔で運行され、料金は片道5ドル(米ドルで、カナダドルいずれの支払いでも同料金)。この運行間隔と料金からも両都市の近さを窺い知れるだろう。その上、NHL(アイスホッケー)、MLB(野球)、NBA(バスケットボール)の開催日と、ライブ等のイベントがある日には、それらの場所を経由するルートに変更すると言うのだから、もうそこが海外だとは思えなくなる。

ウィンザーから国境を越えてデトロイトでやりたい事その1

ガソリンを入れにデトロイトまで出向く

距離が近いのをいいことに、私自身は1週間から2週間に1度のペースでデトロイトまで出かけている。

デトロイトが近いと言っても、時にはトンネルや橋が混雑していて入国に時間がかかることもあれば、そのトンネルも橋も通るのには料金が発生する。そういった事を考慮に入れてもまだ近いと感じさせられるのには理由がある。それはつまり費用対効果だ。

中でも最たる例として挙げるべきはガソリン。ここ最近の価格で比較してみると、デトロイトの方がウィンザーで入れるより30%安くなる。特に価格の高騰が続いている昨今ではその差がもたらす影響も大きい。

安価のガソリン以外にも、向こう(厳密にはデトロイトではなくその近郊エリア)には私のお気に入りのスーパーであるトレーダージョーズがあり、アジアの食品を扱うお店の選択肢だって当然ウィンザーより多く、イケアにまで足を伸ばせば何を買わずとも至福の時を過ごせる。更にはセールスタックスも13%を取られるオンタリオに対し、あちら(ミシガン州)は半分以下の6%。

これだけメリットがある故、多少の時間や通行料がかかろうと、アメリカのオフィサーにあれこれ質問される面倒を蒙ろうと、それでもまだ対岸を「近い場所」として捉えることができる。そんな場所だからこそ、買い物ついでにコインランドリーに行っても、わざわざ外国に行って洗濯しているだなんて感覚にもならない(私の車のナンバープレートを見たら現地の人は奇妙に思うのかも知れないが)。

ウィンザーから国境を越えてデトロイトでやりたい事その2

犬も歩けばデトロイトに行き着く

ウィンザーとデトロイトのこの限りなく近い距離感を享受できるのは人だけではない。犬だって一緒。私の家からデトロイトリバーまでは歩いて5分足らず。その川沿いはグースの糞が落ち放題にさえなっていなければそのまま散歩道にもなり、川の向こうに広がるデトロイトの高層ビル群を見ながら国境線上を歩くという、大半の人にとっては非日常的な体験を犬でありながら頻繁にしているのが我が家の2匹。

この地に住むということは、人間が生活する上で持ち得る選択肢同様、犬にもより多くのオプションが自然と与えられることになる。

犬を飼っていれば、シャンプーやグルーミングをお願いしたい時があれば、ペットホテルに預けなければいけない時もあるし、またたまには普段よりちょっといい食事をさせたい時も、誕生日にケーキを買ってあげたい時だってある。こういった全てのケースで、すぐそこにデトロイトがあるおかげでより多くの選択肢の中から選ぶことが可能になる。

何よりもありがたいのは病院に通わせてあげなければいけない状況に於いても、国境を跨いだ向こうにはより多くのお医者さんが居て、費用もカナダ側と比べて安く抑えられる点。デトロイトでではないものの、股関節形成不全を患う我が家の次女の手術をアメリカでしてもらえるのは国境地帯に住んでいるからならではのことだ。

アンバサダーブリッジ

国境地帯ならではのデメリットも

ウィンザーの名を世界に轟かせたのが、つい最近発生した「自由の車列(英語では Freedom Convoy)」なるデモ隊によるアンバサダーブリッジ占拠事件。カナダ政府が両国間を行き来する物流トラック運転手に対しワクチン接種の義務化を進めたことをきっかけに始まったとされるデモで、終いにはワクチン接種義務化とはまるで関係の無いところでの主張や、コロナ禍で溜まった鬱憤ばらし的要素までが混在する大きな混乱を巻き起こした。

その「車列」によって最も大きな影響を受けたのが、カナダの首都であるオタワと、ここウィンザーだ。なぜウィンザーが狙い撃ちにされたのかと言えば、その理由は両国間の国境で最大となる物流トラックの通行量があることに尽きる。そんな場所を封鎖することでカナダ経済に多大な影響を及ぼせば、いずれは政府側が根負けして義務化も撤廃するだろうという策略。

結果的には連邦政府が緊急事態法を発動したことで、当地警察がデモ隊を強制排除し、1週間に渡って占拠されたアンバサダーブリッジの通行が再開したものの(オタワでのデモは以前継続中)、その後も継く交通規制によって橋の近隣住民は今日に至るまで不便を強いられている。

今後、同じような理由でデモを強行しようとする者にとってはウィンザーを標的にするのは「メリット」が大きいのだろうから、またいつウィンザー市民がそのとばっちりを受けるかも分からない。彼等にとっての「メリット」も、ここで普通に暮らす側にとっては「デメリット」で、他には無い「国境都市」ならでは特徴として意識することになる。

関連記事:『ウィンザーとはどんな町?生活を始めて1ヶ月の今日までに覚えた印象から』

オススメのダシガラより