スイスの山並はハイジだけでなく日本のジジババをも魅了する

これまでそのあまりに高い物価を避けるべく、私が遠目に見続けてきた国がスイス。ところが今回両親を伴ってヨーロッパへと旅することとなり、もはや次回があるかどうかも分からないジジババの願いを叶えるべく、とうとうその地を訪れることになった。

私がこれまでにスイスを訪れたのはわずかに一度きり。それもただモントリオールから香港へと移動した際、飛行機の乗継時間を利用して日帰りでベルンまで足を伸ばし、それからチューリッヒのカフェで留学仲間とおしゃべりしただけのことだから、せいぜい半日程度の滞在でしかなかった。

元よりスイスの物価は高いというイメージがあったものの、少しでも食費を安く済ませようと入ったはずのベルンのマクドナルドで、セットが日本円で1500円ぐらいしていたのに改めて驚愕し、以降また訪れようという気にはなかなかならずにいた。

ところが今回、本来一人でポーランドまで友人に会いに行く予定でいたのが、コロナ禍の間に亡くなった叔父のお墓参りをしにデンマークに行きたい両親を伴ってヨーロッパへと旅することになり、そのついでにどこか行きたい場所は無いかと聞いたらスイスという答えが返って来た。

全くよりによってとんでもない国を選んでくれたものだと内心では思ったものの、二人とも七十代のジジババだし、私自身が「旅は行ける時に行きたいところに行っておく」という考えの持ち主でもあるから、そんな両親の気持ちが冷めてしまわないうちにと、早速旅の計画を始めたのだった。

実際に行ってみて感じたこと。物価に関して言うならば、(今になって計算してみると)やはりとても高かった。高級ホテルに泊まった訳でもないのにあれだけの額を宿泊代に支払ったのはクック諸島以来だったし、ファストフード店が無いような町で食事をするともなれば相当の出費になるのは避けられない。

そうなることはある程度想像がついていたから、私が採った手段は初めからスイスフランのレートを覚えないことと、現金は入手せずに最後まで全てをカード払いにすること。無駄も贅沢もしないよう心がけつつも変に躊躇もしない。そこはカナダでも日本でもなく旅先のスイスなのだから、滞在中はとにかく楽しむことを優先するようにした。

帰って来てからカードの明細を見返して鼻血が出そうになっているのは事実だ。それでも、私がこれまでに旅した国と比較してもスイスはコストパフォーマンスがとても高かった。

他の国と比較して明らかに物価が高いのにもかかわらず、尚もコストパフォーマンスが高いと感じさせられた最大の理由はスイスの観光資源そのものにあった。旅もその回数を重ねれば重ねるほど、どこかに慣れが生まれてちょっとやそっとのことでは感動もしなくなってしまうものだが、今回スイスで見た景色は本当に美しく、今までどの国でも見たことのないものに感じられた。

もちろん、それは今回の滞在地が都市部ではなく、山間部に位置する町であったことにも起因しているとは言え、谷間にそよ吹く風の音に朝晩のひんやりとした空気、そして山と雲の向こうに隠れたりまた姿を現したりする陽の光、そういったものの全てがただただピュアだった。テレビやパソコンの画面越しには伝わらないものが間違い無くそこには存在していた。

今回の旅で私の両親が最も気に入ったのがやはりスイスだったし、ここ最近では友人や親戚に会いに行くというような、人の要素が無くしては旅の動機が見つかりづらくなっている私ですら、スイスであれば例えそこに誰も居なくともまた訪れたいと強く思えることには自身とても驚いている。

またスイスは私のような老人を連れた旅行者にとてもやさしい国でもあった。何もかもが適度に整備されているだけでなく、且ついい状態を保っている為に、普段日本に暮らし、日本=常識となっている者にも馴染みやすい。

電車はほぼ時間通りに運行されているから計画も立てやすいし、きれいなのに無料で入れるトイレだって各所にある。年齢的にも旅先で上手く臨機応変にできないジジババを連れていても、スイスに滞在している間はデンマークやフランスと比べてずっとストレスが少なくて済んだ。この点も私が感じるスイス旅行のコストパフォーマンスの高さの表れだ。

恐らくまた両親を連れてスイスに行く機会は無いのだろうとは思うのと同時に、私自身だってもう若くないし、ハイキングなどで楽しむのが醍醐味の土地柄だからこそ、また近い将来、体力があるうちに再訪できればと考えている。

幸い中国での留学生活中に知り合った仲間達が世界の至るところに居て、今回もラウターブルンネンで久々の再会を果たした一人とはまた会いに行くからねと既に約束も交わしてしまった。コロナ禍を境に旅行に出ることも少なくなり、その分浮いたお金があればスイスで数日間滞在するのにもどうにか耐え得るだろう。次は夏ではなく、また別の季節にも訪れてみたい。