若くして故郷を離れ、海外で重ねた月日がとうに日本でのそれを上回り、その間随分この体にも無理をかけて来た。四十代にもなればどんなに馬鹿でも少しは健康にも気を配ることを覚え、普段から適度に運動をしてみたり、食事も栄養が偏らないように心がけたりはしているものの、果たして結果として表れているのかを知る術が、少なくともここカナダにはあまり無い。
医療サービスを無料で受けられる(実際には税財源で公的に負担している)のは確かに有り難い。しかしこれらのサービスはあくまで体に明らかな不調があったり、怪我をした場合に受けるものという原則の下で提供されていて、問題を未然に防ぐ為のものではない。
私からすれば「そんな行き当たりばったりでいいのか」とも思ってしまうのだが、ここでは医療サービスの概念がそういうものである以上日本のように人間ドックが浸透するはずも無いのだ。
CTやMRIが当たり前に受けられる日本だからこそ存在し得る人間ドックという代物
そんなカナダ(とその他大半の国)とは対照的に、日本なら比較的気軽に病院に行くことができる環境があるだけでなく、本格的な検査を受けることが可能な設備が整った病院をどこでも見つけることができる。
そして、ただの採血ですらわざわざ別に手配された検査機関まで赴くように指示されることもあるカナダ在住者からすると、CTやMRIのような検査が全国各地の病院で受けられるのはまさに「別世界」での話のようであり、「道理でカナダには人間ドックなど存在し得ないのだ」とも思わされる。
人間ドックは時にその必要性について論議され、利益より害が大きいなどと言われたりもしているようだが、そんな論議にしても、まずは受けるか受けないかの選択肢があるからこそ始められるもの。どのように考え、調べ、決めるのかは各個人次第と言えるのだって日本ならではだ。
予約から支払まで全てオンラインで完了できる
限られた日本での滞在時間だから、早め早めにスケジュールを組みたい一時帰国者にとって、人間ドックの予約も支払もオンラインで完了できるのはとても大きなメリット。
私も利用したのがマーソというサイトで、日本全国1300以上の医療施設で受けられる人間ドックが掲載されており、その中から希望する場所やコースを絞って検索できるようになっている。例えば「総合コース」のカテゴリーには「人間ドック」に「人間ドック+脳ドック」や「全身がん検診」などがあり、「単体検診」のカテゴリーでは胃、心臓、大腸のように臓器別で細かく検索をかけられる。
そしてオンラインで事前に支払まで完了できることのメリットは、検診当日全ての検査を済ませた後に支払の為だけに待たされることが無い点。今回私がお世話になった病院について、ネット上での評判で最も多かったのが会計で長時間待たされるというものだったが、既に支払を終えていた私には無関係で済んだのはよかった。
日本で人間ドックを受けることのメリット
私は以前香港に住んでいた際、数年に1回の頻度でタイのバンコクまで人間ドックを受けに行っていた。私が調べていなかっただけで恐らく香港でも受けることはできたのだろうと思うし、近隣では他にも台湾やマレーシアで受けるという選択肢があった。
そんな中でもバンコクを選んだ理由は、単にその旅が観光要素をより多く含んだものであり、人間ドック自体はついでにやっておくという感覚が強かったせいだ。費用だって決して安い訳ではなく、それでも日本に帰って受けることを考えれば、より航空券も現地の物価も安いバンコクの方がいいかと割り切っていた。
そう、実は東南アジアで受けたところで、その費用が必ずしも日本より安い訳ではないのだ。
しかし北米で暮らすようになった今、アジアへと足を運ぶのは簡単なことではなくなり、それだけの費用と時間をかけて遠出をするのであればその全てを日本への一時帰国に当てたい。つまり人間ドックも日本で受けることが唯一の選択肢になり、今回実際に初めて日本で受けてみたところ、予想以上に便利で、且つ費用も安く抑えることができ大満足だった。
何が便利なのかは前述したとおりだが、費用について言うと、今回受けた人間ドック+脳ドックのコースでは、コース単体で6万円弱、結果のデジタル化及び海外への郵送料金に別途5千円程が発生し、合計でも約6万5千円で済ませることができた。
日本に住んでいたり、日本で勤めていたりすれば、様々な控除なども受けられてもう少し安くはなるのだろう。それでも、腹部CTに頭部MRIまで含んだ上で、全額自費であるにもかかわらずこの料金で受けられるのは破格と言えるものだし、恐らく日本以外ではあり得ないことだろうと思う。
そんな安価で人間ドックを受けられるのは、やはりここでも市場の原理が働いているからに他ならない。日本であればそれこそどこでも受けられる人間ドックだから、誰がより多くの選択肢を用意し、より安く、より良質のサービスを提供できるかで客の取り合いをする。我々消費者は日頃の買い物と同様、ここでもまたその恩恵を蒙ればいいだけ。つくづく贅沢なことだと感じる。
ちなみに、今回お世話になった病院をグーグルで検索してみたところ、その評判は決して芳しいものではなく、本当にここで大丈夫なのかとのためらいも正直幾らかはあった。ところがそこはやはり日本。海外で生活している者からすればそれで充分だと感じられる仕事をしてくれていたから結果オーライだった。
私のようにカナダに住んで8年目に入りながら、この国の医療環境の影響もあって一度も病院に行ったことが無い場合、医療現場で使われるような単語を覚えるチャンスすらまともに得られず、ここで人間ドックが受けられたとしてもまずコミュニケーションに苦労しそうなことまで考えると、結局のところ日本で受けるのが最も手っ取り早かったらしい。
あとは気を長くして結果を待つだけ
今回の病院の場合では、残念ながら全ての検査を受けた後で医師からその場で直接説明を受けるような機会は設けられていなかった。全てを知るのは検査から約1ヶ月後、結果がここカナダまで郵送されて来た時になるが、だからと言って特に不安は感じていない。
いずれにせよ、精密検査や何らかの治療が必要になる問題が見つかったとしても、さすがにその度に遠い日本まで帰ってはいられず、嫌でもカナダで対処するしか無い。カナダではその問題を見つけること自体が大変でも、一旦問題さえ見つけてしまえばどんな病気でも一応専門医が居るし、何度病院に通うことになろうと、手術が必要になろうと、費用は一切発生しないのだから、もう何も心配することなど無いのだ。
もちろん、何も問題が見つからないのに越したことは無いのだが。