カナダで股関節形成不全の診断を受けた犬の飼い主になって

かかりつけ医に「股関節形成不全 (hip dysplasia)」であると診断されてしまった我が家の次女。その後より専門的な知識を有する獣医へと紹介され、先日その専門医に診てもらって来た。

残念ながらここでも診断結果に変わりは無く、これで次女が股関節形成不全を患っていることが確定してしまった。

今後の治療方針について

これもかかりつけ医から既に聞かされていたように、次女の状態から見て、やはり手術は不可避であるとの専門医の判断だった。

股関節形成不全の手術には、犬の年齢、症状の進行具合等によって異なる術式があり、飼い主が負担し得る治療費用も踏まえて、最終的にどの方法を採用するのかが決定される。しかし今回診てもらった専門医によれば、次女のケースについては「股関節全置換術 (Total Hip Replacement: THR)」の一択なのだそうだ。

かかりつけ医からは、選択可能な術式として「三点骨盤骨切り術 (Triple Pelvic Osteotomy: TPO)」と「大腿骨頭切除術 (Femoral Head Ostectomy: FHO)」の2種類が専門医に対して提示されていたらしいのだが、この専門医の見解では、

  1. TPOは主に小型犬から中型犬に対して有効とされるだけでなく、股関節に変形性関節症を発症する前に実施する必要がある(発症後の治療を救済的治療法と呼ぶのに対し、こちらはあくまでも予防的治療法)

    → 次女の検査結果では既に変形性関節症の発症が見受けられる

  2. FHOは小型犬の場合予後が比較的良好であるものの、それ以上の大きさの犬には適した術式とは言えず、術後の機能回復にも長い時間を要する

    → 次女は遺伝的には大型犬に属する犬種であり適さず

とのことだった。

股関節全置換術という術式

そして残った股関節全置換術、THRという術式。

股関節を全置換すると言われると何やらとても恐ろしいものに聞こえる。実際に高度な技術を必要とする術式らしく、当地アルバータ州でも私が住むエドモントン一帯ではできない手術で(今回診てもらった専門医を含め)、300㎞離れたカルガリーまで行かないと受けられないとのこと。

それでもTHRは現時点で最も洗練された術式だそうで、そのメリットには、

  • 中型犬や大型犬でも予後が良好
  • 術後の回復が非常に早い

といった点が挙げられる分、費用も他の術式と比較して高くなりがち。ネット上で調べてみたところ、最低でも5000カナダドル(現行のレートで約44万円)から、上は20000ドル(同約175万円)までと、いずれにしても相当額の出費を覚悟しなければならない。

また、THRにも「セメント法 (cemented total hip replacement)」と「セメントレス法 (cementless total hip replacement)」の2種類があって、つまり人工器具の固定にセメントが使用されるのか、若しくはされないのかの違いがある。これについての説明は各サイトによってまちまちで、果たしてどちらがいいのかの判断は私にはできなかった。

ー セメントレス法がすぐれていると説明するサイト
セメントレス股関節全置換術 BFX法 ー 相川動物医療センター

ー 逆にセメントレスであることによってもたらされる利点は見出せない(つまり従来のセメント法で何ら劣るところは無い)と説明するサイト
FAQ: Total Hip Replacement – The Ohio State University Veterinary Medical Center (2問目の “Do you use a cementless or a cemented total hip replacement?” 参照)

最終的には執刀医の意見と腕を信じる他に無いのかも知れない。

いつ、どこで手術を受けるのか

次女にとってTHRが唯一の選択肢であることは分かった。ではその手術をいつ受けるのか。

術式によって適した年齢があり、THRの場合も、セメント法とセメントレス法のどちらを採用するのかで事情は異なるらしい。

人工股関節に関する Q&A ー 藤井寺動物病院・動物人工関節センター(ページ下段の「人工股関節に関する Q&A」から「THRの適応年齢」参照)

FAQ: Total Hip Replacement – The Ohio State University Veterinary Medical Center (5問目の “What is the earliest age my dog can have this procedure done?” 参照)

ちなみに次女は今8ヶ月を迎えたところで、いずれにせよ手術は骨格形成の終了後に受けなくてはならず、最低でもあと1、2ヶ月待つ必要があるそう。

手術をどこで受けるのかについて。私は近くオンタリオ州への引越を予定している為に、引越後に病院を決めることになる。今回お世話になった専門医は私と正反対でオンタリオからこちらに移って来たばかりということもあって、幸いにもオンタリオの事情に詳しく、私が現地に到着した後に改めて病院を紹介してもらう段取りだ。

とは言え、ここアルバータの州都であるエドモントンでも受けられない手術だけあり、私の引越先にしても状況は似たようなもので、やはりトロント、若しくはその近辺まで行かなければいけないだろうとのこと。車で片道4時間はかかるだろうか。アメリカに行く方がよっぽど近くても、ここでもコロナ禍の影響があり、陸路での国境越えが制限されている現状では難しい。それにちゃんと治してさえもらえるならば、例え8時間かかろうと、10時間かかろうと、移動の苦労などもちろん何の問題にもならない。

手術を受けるまでにできることとするべきこと

今回専門医に診てもらい、現状について詳細に渡って説明を受けたのと同時に、手術までの段階で注意すべき事についてアドバイスをもらった。

中でも特に気をつけなくてはいけないのは、運動制限、体重管理、そしてストレスの発散の3点だと言う。

毎日ドッグパークに行って遊んでいた次女が今は走ることさえ許されず、結果として体重が増えてしまったり(→ 患部により負担が掛かる)、ストレスを溜め込んだりしてしまう(→ ストレスを溜めれば溜めるほど動き回りたくなる)のを避けなければいけない。

だから私はこれまで毎日朝晩の2回連れて行っていた散歩を3回に増やし、ゆっくり時間をかけて歩くようにしている。関節の痛みもあって散歩の途中に立ち止まってしまうことがあっても、そこは焦らさず、自分で立ち上がるまで気長に待つ。公園の芝生に一緒に座って周りを眺め、通り過ぎる人や犬ともおしゃべりをする。今のところそれでもある程度は満足してくれているようだ。

最終的な診断結果を受けて当然ショックが全く無かったとは言えないのだけれども、自分が飼い主、親、仲間としてどうしてあげるのが最善であるのかを、より前向きに考えることができるようになったと感じている。

『コロナ禍の影響を受ける北米のペット医療事情』へつづく


犬の股関節形成不全について理解するのに参考にしたサイト一覧

股関節形成不全についてお話します ー かつまペットクリニック

犬の股関節形成不全 ー YPC 東京動物整形外科病院

股関節形成不全 (Hip Dysplasia)・股異形成 ー 相川動物医療センター

動物人工関節センター ー 藤井寺動物病院

Total Hip Replacement in Dogs – VCA Animal Hospitals

FAQ: Total Hip Replacement – The Ohio State University Veterinary Medical Center

Our Services – Michigan State University Veterinary Medical Center

The Total Hip Replacement – BioMedtrix