「世界の住みやすい都市ランキング」トップ10に入ったカナダの3都市
イギリスの経済誌『エコノミスト』が近頃発表した2022年版の「世界の住みやすい都市ランキング」。世界の172都市を対象に行われた調査で、トップ10にはカナダの3都市が含まれるというものだから、カナダ国内のメディアもこぞってその「偉業」を報道した。
- World’s most liveable cities: Canada ranks high in 2022 – CTV News
- Calgary named world’s 3rd most liveable city by Economist Intelligence Unit – CBC
- 3 Canadian cities were just ranked among the most livable in the world – Curiocity
カルガリー3位、バンクーバー5位、トロント8位
対象各都市の政治的安定性、インフラ、医療、文化、環境、教育等の項目を指標に点数づけがなされるこのランキング。1位から10位までに以下の都市が並んでいる。
1. ウィーン(オーストリア)
2. コペンハーゲン(デンマーク)
3. チューリッヒ(スイス)、カルガリー
5. バンクーバー
6. ジュネーブ(スイス)
7. フランクフルト(ドイツ)
8. トロント
9. アムステルダム(オランダ)
10. 大阪、メルボルン(オーストラリア)
その指標に医療を含むだけあり、今回のコロナ禍で大きな変動があったのではと思う人も居るかも知れないが、少なくともカナダの3都市については、過去のランキングでも同時にトップ10入りしたことが何度もある(参照:Global Liveability Ranking – Wikipedia)。
生活のコストとコストパフォーマンスは完全無視?
様々な指標をもって住みやすさを定義する以前に、住めるか、住めないのかがまず問題だろう。
トロントやバンクーバーで生活するのは尋常でないコストがかかる。その事実を知った上でこのランキングを見ると、あくまでもこういった都市に住めるだけの条件を「十二分」に満たした人に絞り、その人達が生活する上での住みやすさについて語られているようにも思えてしまう。
何しろ、トロントとバンクーバーの家賃の高さは東京の比ではない。その上毎年のように上昇を続けている。
Rentals.ca のデータによれば、1ベッドルームの物件でも家賃は2000ドル(現在のレートで約21万円)超えで、2ベッドルームの物件ともなれば3000ドル(約31万5千円)以上。
出典:Rentals.ca
その分、トロントやバンクーバーに於ける給与水準も高いのかと言えば全くそんなことは無い。確かにカナダの全てが集まると言っても過言ではないトロントには、他都市と比較してより好条件、高賃金の仕事も多いのは間違い無い。しかし一般的な職種であれば、トロントだからどこよりも賃金が高いということにはならない。もちろんそれはバンクーバーにも言えることだ。
ちなみに、2020年に実施された調査によると、カナダ全体の平均世帯年収の中央値(税引き後)は66800ドル。単純に12ヶ月で割ると5600ドル弱が月収入となり、バンクーバーやトロントで2ベッドルームの物件を借りるとすると、月収の半分以上が持って行かれることになる訳だ。
このような実情があるにもかかわらず、尚も「住みやすい都市」と言ってしまっていいのだろうか。
都会を離れることを余儀なくされる若者と離れるに離れられない若者
コロナ禍で仕事のリモート化が進んだなどと言われる中、その流行から2年半近くになり、コロナとの共存が新たなスタンダードとなったカナダ。その間、一部の地方都市は当地での生活コストの安さを前面に出して、都市部からの移住を促す広告を盛んに出していた。ところが、私個人の肌感覚で言うならば、ここ最近勤務先企業の方針を受けて職場へと逆戻りすることになった人は決して少なくないように思う。
実際のところ、特に収入が限られる多くの若者にとっての問題は、トロントやバンクーバーで如何ともし難い水準に達した生活コストの高さで、結果その地を離れることを余儀なくされるケースが増えて来ているらしい。これはもうリモート云々以前の問題だ。
バンクーバーはまだしも、カナダ社会に於いて日本での東京以上に一極集中が目立つトロントを離れるとなれば、キャリアでも、日常生活でも、選択肢が大幅に減ってしまうのは確実。それならば少し離れた郊外に住もうかと考えたところで、いずれもカナダで家賃の高いところとしてその名が挙げられるような町ばかり。
だからシェアハウスでプライバシーが保障されない環境を甘んじて受け入れ、仕方無くトロントでの生活を続けて行く決断をする人も居る。そのような状況と比較した時、より安価なワンルームの物件が見つかる東京の方がまだ住みやすい気がしないでもない。どれだけインフラが整っていようと、医療サービスが良かろうと、住める場所の確保すら難しいトロントを住みやすい都市と称するのは流石に無理があるように感じる。
関連記事:『カナダでトロントにもバンクーバーにも住まないという選択』
私が友人にカルガリーを勧めた理由
子連れで「プチ移住」を検討しているという友人から相談を受けた際、トロントやバンクーバーを第一候補として考えていた彼女に私が勧めたのはカルガリーだった。
その理由はまず何よりも生活コストがずっと抑えられる点にあった。カルガリーでの平均家賃はバンクーバーやトロントに比較した時ずっと安く、Rentals.ca のデータによると、1ベッドルームでは約1500ドル(16万円弱)、2ベッドルームでも1800ドル(19万円弱)程度とのことだったが、実際にはもう少し抑えられる。
そして、あくまで日本人ならではの観点からの話ではあるのだが、バンクーバーほどではなくても日本により近く、不測の事態に陥った時に頼りになる日本領事館もある。子連れにはうれしい日本人コミュニティ・スクールなる学校まであって、日本語力の維持を可能にするのはもちろん、日本人との繋がりを持つことで親子共に得られるメリットがあるのも見逃せない。
これらに加えて、カルガリーならアジア系のスーパーが点在しているから、より充実した食生活を送ることも可能だ。
それでも、世界中で最も住みやすい都市の3位にふさわしいのかと言われれば、やはり疑問に思わずには居られない。前述の指標を基準にして改めて考えてみても、特にインフラであったり、医療サービスであったりは、カルガリーよりもずっと整った都市がいくらでもあると思う。
実際にSNS上でもこの報道についての人々の反応は真っ二つに分かれているように見える。「誇らしい!」という声と、「カルガリーが3位になれるならこの世界はどれだけ住みにくいところなんだ?」といった声だ。
私もカルガリーなら住みたいと思うけれど、それはあくまでカナダ国内で場所を選ぶならという前提付きでのこと。もし世界のどこでも自由に住んでいいと言われ、言葉の問題も無いのだとしたら、恐らくだが、カナダの都市は私の選択肢に含まれて来ないだろう。
住みやすさと生きやすさは違う
私が思うに、カナダは「住みやすい」と言うより「生きやすい」場所なのではないだろうか。
住みやすいと生きやすいは全く異なる概念ではなく、互いが関わり合ってこそ初めてより住みやすくも、より生きやすくもなるとは言え、もしこのランキングのように住みやすさがデータを基準にする要素が強いのであれば、生きやすさはもっと主観的な要素が濃くなる気がする。
カナダなら、適度にルールが存在すると同時に「ゆるさ」がある点や、無駄なしがらみに悩まされることが少ない(田舎町は除く)といった点が生きやすさに繋がっているように思うし、こういった点は、私自身が特段カナダを住みやすい場所だとは評価できなくとも、生きやすい場所であると考える理由にもなっている。
住む町に何を求めるのか、何を期待するのかは人それぞれだが、こういうランキング記事は大した参考にもならないゴシップのような扱いで読むのがちょうどいいと私は思っている。