全世界で供給が待たれるコロナワクチン。カナダではこれまでにファイザー、モデルナ、アストラゼネカの３社がそれぞれ開発したワクチンが承認されていたところに、今回ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンも承認された。現時点ではファイザー製のみの承認にとどまっている日本と比べれば、カナダ政府の対応はよっぽど迅速に進んでいるように見える。同時に日本の状況に対しては、どうしてそんなに時間がかかるのかともどかしく感じずにもいられない。
ワクチンによって救われる命があれば、副反応で失われる命もある。本来ならより長いタイムスパンで研究を重ね、開発されて然るべきもので、こういった事実を踏まえれば必ずしも早ければいいとは言えず、国も承認には慎重になるだろう事は当然理解できる。
ただ、日本で政府が時間をかけているのはワクチンの承認だけでなく、それが大抵の事に対しても同じなのだから、つまり単に無駄に複雑な制度の中で非効率的な仕事の進め方しかできていない訳で、更にはその現状に慣れてしまっているのは問題だ。そして何故か専門知識の欠落した人が各省庁のトップたる閣僚のポストに就き、記者会見では前もって提示された質問内容と準備された模範回答が無いと正確な情報や今後への展望も伝えられず、その結果国民は全く先が見えない状況の中我慢を強いられる、などという謎のサイクルがエンドレスに繰り返されているのはもはや悲劇でしかない。
メディアの報道だったり、インターネット上の言論を見る限り、カナダにもワクチン否定派が一定数存在しているのは明らかで、ただでさえ安泰とは言えない現政権がワクチン政策で大きなミスを犯せば命取りになりかねない。それでも政府は今回のコロナ禍でも次から次へと目に見える行動を起こし、国民を代表してこの国に住む全ての人の為に最善の決断をするという政治の役割を果たしているように思う。結果的には賛否両論あろうとも、決定権がそこにあり、決定を下すという責務がある以上、最大限の努力を以って決定する事こそが彼等の役割だからだ。
そしてその過程に於いても、各部門のトップが大半の場面でしっかりと説明責任を果たし、現状とこの先の対応について丁寧に伝えている。日本人の私が見ているとそれはあまりに新鮮に映り、無条件で全ての言葉を信じるまでボケきれずとも近い将来への希望を抱くには充分で、そんな将来へと続く道をより鮮明に描けるように自分にできる事をしようとすら思える。そして不幸なコロナ禍の中にあってわずかながらも幸せを感じ、幸せを与えてくれる人達に感謝する。
まだコロナの流行が始まって間も無い頃は、マスク着用の義務化や経済活動への制限など、各国政府が次々と打ち出す対策は決して少なくない数の民衆の反感を招き、ここ北米でも「毎年インフルエンザで亡くなる人の数と比べれば大した事ではない」などというコメントが多く見られた。ところがその後の１年弱程の間に、対策を強化しようとする側と、それには乗らないという態度を示す者との諍いの陰で存在を無視され続けた死者の総数はアメリカで50万人以上、カナダでも２万人以上にも達し、なお増え続けている。
バカのひとつ覚えのように個人の自由や個人の権利を謳い続けた輩が、この数字の中にも幾らかは含まれているにしても、大半は何かを主張したくともその機会が与えられず、近くワクチンが開発されるのを知る事も無く、家族に手も握ってもらえずに最期を迎えた人達なのだろうと思うとあまりにいたたまれない。ところが現実は、私達は今そんな犠牲の上に漸く成り立つ社会に生きている。彼等自身が叶えられず、身近な誰かに残した希望が次こそは叶えられるようにと、この社会に生きる者として願い、できる事なら力添えしたいとその手段を模索している。
個人的にはワクチン肯定派でも否定派でもないけれど、当地アルバータ州でもここ最近新規感染者数の減少ペースが鈍化している事を見るにつけ、ワクチン以外に期待を抱かせてくれるものはあるだろうかと考えても結局は何も思い浮かばないのが事実。
現在の状況が今後も引き続き当たり前になるのか、それともいつかはコロナ流行前の普通の日々に戻る事ができるのか。もし叶うのなら、やっぱり以前のような生活に戻って欲しいと願うし、だからいずれは自分にも回って来るであろうワクチン接種の機会が訪れた際には、私は何も躊躇う事無くスパッと予約を入れて打ってもらいに行くだろう。ワクチンを接種した結果が体にどのような影響をもたらそうとも、少なくとも１人分のワクチン接種者のデータが増えて、人がそれを治験と呼ぼうが、人体実験と呼ぼうが、どこかで誰かの役に立つかも知れないのだし。
ちなみに、私のように高齢ではなく持病も無い者に対する接種は、アルバータ州の場合、春から初夏の辺りにスタートする予定だそう。もう少しの辛抱だ。
