元日本人の「一時帰国」体験談一部抜粋

どこの国よりも知っているはずの日本。ところが一旦外国人になってみると、実は知らないことも結構少なくなかったり、知っていることが逆に障害になり得ることがあるのに気がつかされる。

既に外国人となった「元日本人」なのだから「一時帰国」だなんておかしい?そんなことはない。だって外国人になったと言ってもそれはあくまで国籍上での話。自らを何人と言うのか、その基準は何もいつも国籍ばかりではない。

とは言っても、国籍上に於ける分類はやはり間違い無く存在し、その分類によって日本への入国と滞在時にもこれまでとは異なる部分があるのもまた事実。これまで全く知ることも、知ろうとすることも無かったそれらの違いを、今回カナダ国籍となって初めての帰国をきっかけにして幾つか知ることになった。

成田の入国審査は長蛇の列

自分が外国人になったのは日本への入国時から強く感じさせられることになる。それが入国審査。

基本的に自動化ゲートの利用が求められる日本人入国者とは違い、外国人は相変わらず審査官との対面でのやり取りが必須のままで、開いているレーンが少ないのは未だコロナ禍の影響が続いているせいなのか、長蛇の列にかなりの時間並ばされるのを免れない。私が到着したのは朝8時だったが、この時でも1時間近く列に並び、危うく事前に予約していた電車に乗り遅れるところだった。

後で聞いたところでは、夜に到着した人が入国までに4時間を要した結果その日の移動が困難となり、結局成田で一泊せざるを得なくなったなどというケースもあるらしい。

しかし、入国審査までの過程で何より違和感を覚えたのは、列に並ぶ外国人にとても横柄な態度で指示する係員の存在だった。

その係員は日本語だけを話し、そのくせ「日本語が分からないのか」とでも言いたげに、とにかく人をバカにしたような口調で、もし私が直接同じことを言われていたのであれば間違い無く一言言い返していただろう。

ネット上でこの点について愚痴っていた人に対して、誰かが「日本人がアメリカに行った時だって似たような対応をされている」などと理由にならない理由で反論していたのを見かけた時、私は正直鼻で嗤ってしまった。アメリカがそうなら日本もそうするのか?東京オリンピックの招致以来どこもかしこも「おもてなし」を強調する国の玄関口で、あのような態度では「おもてなし」どころか人としての常識の有無すらも疑いなくなるというものだ。

パスポートの携行義務がある

入国当日は国籍を問わずして誰もが間違い無く手元に持っているパスポートだが、外国人の場合、日本滞在期間中はどこに出かけるにせよ必ずいつも携帯していなければならない。

この根拠となる入管法第23条では、日本に在留する外国人は、中長期在留者を対象に発行される在留カードを所有且つ携帯している者や特別永住者を除き、常時パスポートを携帯し、求められた際には提示する義務があると定めている。

参照:旅券等の携帯(入管法第23条)ー 出入国在留管理庁

つまり、私のように日本の運転免許証を所持していても、あくまで通常の身分証明として(そしてもちろん日本で合法に自動車を運転する為の運転免許証としても)使えるだけで、外国人として日本に滞在するにはそれではまだ充分ではないということになる。私も今回の帰国中はいつもカナダのパスポートをバッグに入れておいた。実際にその提示を求められるような場面はJRの外国人向けパスを購入した時以外には無かった訳だが。

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「元日本人」の外国人としての情報収集が必要不可欠

現在ではカナダ国籍になったものの、私はただのカナダ人(と言ってしまうと語弊があるかも知れないが)ではなく「元日本人」のカナダ国籍者であり、以前は日本人としての義務や権利を有し、それらの記録が今なお日本には残っている。

昨年トロントにある日本領事館にまで出向いて提出した国籍喪失届。その手続きが日本の戸籍に反映されるまでにはおよそ1ヶ月から2ヶ月を要すると聞いた覚えがあり、それから5ヶ月近くが経過していた状況で実際はどうなっているのかを市役所まで確認しに行った時、職員の方からの回答は「まだ反映されていないようです」だった。

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まだ反映されていないのであればそれはそれで仕方無いと思ったのだが、私が驚かされたのはその後に続いた言葉だった。なんと、「戸籍に反映されていない以上は選挙での投票も可能ですよ」とそのお方はのたまったのだ。

確かにちょうどその数日後に統一地方選が実施されることになっており、実家に届いた投票所入場券には私の名前が入ったままで、何かの手違いでもあったのかと、この時はその確認も兼ねて戸籍の確認に行ったのだった。

しかし、日本の国籍法上では他国で市民権を取得した時点で日本国籍は失われることになっている為、戸籍に反映されていようがいまいが、既に日本国籍を喪失した私には日本での投票権などあり得ない。

とても丁寧に対応してくれたこの方にもその事実をお伝えするべきかどうか、私も一瞬迷ったものの、結局「いえ、選挙で投票するつもりは初めからありませんので」と自らが汚れることを選んだ。

何故かって、小さな町の役所というのは窓口の後ろにそのまま職員のデスクが並ぶ構造だから、私が余計なことを言えばほぼ全員に聞こえてしまう。そこは山梨のど田舎、どうせ私のように国籍を喪失するような人は当分現れないのだし、対応してくれた職員に無駄な知識を増やすのを促すより、そのお方が上司や同僚に何も言われず、心穏やかに午後を過ごせた方がよっぽど有益だろうと思ったのだ。

実は外国語力も求められる「元日本人」

外国人に提供される各情報は「純粋な外国人」に提供することを前提に用意されているせいか、英語はもちろん、中国語や韓国語の内容があっても、逆に日本語バージョンのものは無いなんてことも少なくない。

例を挙げればJRの外国人観光客向けパスを購入するウェブサイト。それがJR東日本なのか、西日本なのかでも違うのかも知れないが、少なくとも今回私がTokyo Wide Passを購入したJR東日本のサイトには日本語の選択肢が無かった(ところが同時に中国語のページはどこか訳が不自然で少し理解しづらい部分があったのは残念だ)。

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私のような「元日本人」は日本についてヘタに知識があり過ぎることが却ってデメリットになり、当たり前だと思っていたことが実は外国人にとってはそうでないのに気がつかなかったり、幸いにして気づいたとしても、以前なら日本語で収集できていた情報が、今では外国人であるが故に外国語で収集せざるを得ない状況に陥ったりもする。嘗ては電話や対面でのやり取りで得ていた情報も全てネット上に掲載されるようになったことがもたらした弊害なのか、果たして便利になったのか、それともその正反対なのか、私にはなかなか微妙なところでもあるのだ。

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