今年はそうでもないのだが、本来カナダの冬は長く、そして厳しい。私の住む内陸の町など、最も寒さが厳しい時にもなれば気温がマイナス40度にまで下がる事だってある。
だから去年家を建てた時も、なるべく外気が家の中に入ってしまわないように、玄関のドアを入って目の前のところにもう1つ別のドアを設置してもらった。
これは以前モントリオールに住んでいた時によく見た設計でもあって、1つ目のドアを入ると玄関と呼ぶには到底相応しくない程の小さな空間があり、そこでまず靴だったり、コートだったりを脱いだりした上で、改めて2つ目のドアを開けて中に入る感じだ。当時はモントリオールでも充分寒いと思っていたがここは更に寒い。ずっと寒い。まさにこんな場所にこそ必要な設計で、住んでみてからも結構満足している。
バンクーバーなどを除き、カナダのほぼ全域で言える事だと思うが、ここでは暖房を寝る前には消して朝起きたらまた点けたり、外出前にも消して帰宅時に点けなおすなどという事はしない。
この家を建てた時にも、私が移民である為に事情を知らないのではと心配したのか、ハウスメーカーの担当者が丁寧にも教えてくれたのは、冬はとにかく一日中暖房を点けたままにする事、帰国などで長期間不在にする場合にも決して暖房を切らない事だ。彼が言うには一時帰国している間に見事に家を凍らせてしまったインド人移民が実際に居たのだそうだ。何たる悲劇。あまりに気の毒で笑うにも笑えない。
そんな場所に住んでいるからこそ、暖房の温度設定はいつも頭を悩ませられる問題だ。24時間点けていなくてはいけないという事は、つまりその為にかかる費用も当然馬鹿にならないという事。
特にカナダに多いセントラルヒーティングを採用した家だと、これは否応無く家全体を暖める仕組みだから余計に費用がかさんでしまう。我が家もそう。冬になるとガス代が一気に100ドル以上も高くなる(夏場は逆にクーラーが無い分光熱費を抑えられる)。
ちなみに、私は朝の起床時間、日中、夕方、そして就寝時間でそれぞれに異なる温度を設定している。寝起きはどうしても寒く感じやすいから部屋は幾分暖かめに、そして朝食も済ませて体が温まる頃は少し低く。夕方、日も落ちて気温が下がる頃を見計らってまた暖かくして、夜は暖かい布団で眠るからまた低めにするといった感じで、平均すれば19度から20度の間。
たまに、「家の中は暖かいから半袖で過ごせる」だなんて言う人も居るが、それは単に暖房の温度を高く設定し過ぎているだけではないかと思う。自分の一存では決められないシェアハウスのような場所なら仕方無くても、決定権があるにも拘らずそのような格好で冬を過ごしているなら、今に「もったいないおばけ」が出て来てもとても文句は言えまい。
とは言え、他の部屋よりも暖かい場所は確かに存在する。それはトイレとお風呂場だ。中でもこの傾向が顕著なのはトイレで(そう、トイレなのに)、一旦ドアを開ければ心が和んでしまうのは別に私がおかしいからではない。
これはセントラルヒーティングのメリットで、トイレやお風呂場の床面にも暖気の吹出口があり、頼まずともリビングや寝室と同じように暖めてくれる。トイレなどは部屋と比べて面積が小さいにも拘らず、だからと言ってそこだけ上手に力加減するなんて事をできるはずも無く、結果家中で一番のおもてなし空間ができあがるのだ。外気に触れる窓の無いトイレであればなおよし。
そうそう、そのおかげもあって、日本みたいに暖かくなる便座でなくても、座った瞬間冷たさのあまりビックリするような事は無い。心穏やかにそのまま腰を下ろし、後はのんびり好きな本でも読んだり、携帯で友達にメッセージを送ったりして(トイレに居る事は秘密)、気がついた時にはもう30分も過ぎていたなんて事を経験したカナダ在住の人は相当数居るだろう。
便座だけが暖かいトイレと、便座は特別暖かくなくても空間全体がぬくぬくのトイレ。私なら迷わず後者を選ぶ。トイレというプライベートが保たれた閉鎖空間が元々結構好きな私にとって、カナダのそれはなかなかに素敵で、カナダライフもそんなに悪くないと思える原因のひとつに数えてしまいそうになる。
もちろんこれは家の中のトイレに限っての話であって、外で入るトイレはとてもじゃないけどリラックスできるような空間ではない。何しろドアの下が広く大きく開いているから人に見られているような感覚になるし、お世辞にもきれいとは言えない場合が多い。ただこの話をすれば長くなる。今日のところはなるべくカナダのいいイメージだけを残すべく、この辺までにしておこうと思う。