カナダのパスポートを手に入れてもうそろそろ1ヶ月になる。
入手当日には早速アメリカに買い出しに行ったり、その翌日からはメキシコへと旅してみたり、1ヶ月足らずにして既に頻繁に持ち歩いているこのパスポート。これまで所持していたのが世界最強とも称される日本のパスポートということもあって、カナダのパスポートを持っている為に何か得したような気分になったことは別に無い。
アメリカへの入国時にも、たまにひどく態度が悪いオフィサーにでも巡り合ってしまえばイヤな思いをさせられるのは相変わらずで、隣人であるカナダ人へのやさしい特別扱いなどは皆無だ(それは私が白人ではないせいかも知れないのだが)。つい先日も、いけないとは理解しつつ、あまりに頭に来たものだから危うく衝突しそうになってしまった。
とは言え、アメリカ入国に際してはカナダ国籍者ならではの「特典」もあり、日本のようにビザ免除プログラムの対象となる国のパスポートを所持する人が申請を求められる ESTA をカナダ人は申請する必要が無い(且つ「I-94」の取得も不要)。これはそもそもカナダがプログラム対象外であり、同時にビザの取得も求められていないという特例に当たる為で、この待遇を受けられるのはカナダ人とバミューダ人だけらしい。
元々、イランへの訪問歴がある私は日本のパスポートを持っていたところでビザ免除対象外で、以前東京のアメリカ大使館で申請したビザが貼られたパスポートでアメリカへの出入国を繰り返していた。これが特に陸路経由でアメリカに入国する際に面倒を引き起こすことがあり、日本人なのになぜビザがあるのかを問われ、イランに旅行したことがあると答えれば、その点についてあれやこれやと聞かれ、終いには別室送りになって5人のオフィサーから1時間半に渡って尋問を受けたことすらあった。
ところが、特定の国への訪問歴がある場合にビザ免除対象外となるのは、あくまでもビザ免除プログラム対象国のパスポートを所持した人に対する取り決めであって、カナダはそのプログラムには含まれていない為、イランに行ったことがあってもビザを取得する必要は無いことになる。つまり、どうしてカナダ人なのにアメリカのビザがあるのか、イランには何をしに行ったのかといった質問からは解放されたという訳だ。
YouTube を見ていると、「カナダのパスポートを手に入れた!やったー!」なんていう動画があったりするけれど、そんな動画を上げている人はまず間違い無く多重国籍を認めている国の出身か、出身国のパスポートが強くないケースのどちらかに当てはまる。
そういった観点から言うならば、私の場合は事実上「ダウングレード」した形になる。何せ、日本国籍を喪失し、世界最強の日本のパスポートを放棄してしまったのだ。
ただ、国籍云々は別にしても、パスポートに関してだけ言うならば、カナダのそれだって世界的に見れば充分強い部類に入って来る。日本と比較した時に大きく異なるのは、中国やトルコに行くのにビザが必要になったり、イランへの入国にはイラン国内の旅行会社により全行程を手配済であるのが条件となるぐらい。中国には以前長いこと住んでもうお腹いっぱいだし、イランも既に旅したことがあり、個人的には大きな影響があるものではなく、特段不便を感じるような点だって無い。
唯一の気がかりが実は日本だったりする。それはコロナ禍の最中に日本が一時期ほぼ「鎖国」と呼べるような入国規制を実施し、日本人以外の入国を大きく制限するという前例を作ってしまったせいだ。
私がカナダの市民権を申請した後に起きたこの出来事により、内心不安に感じさせられてしまったのは事実で、それでも結局その市民権を取得したばかりか、国籍喪失届を提出したことで日本の国籍も正式に失った以上、私にできるのは同じことが将来的にまた起きてしまわないようにと願うぐらい。
そう言えば、私が日本のパスポートを提示した途端、入国審査のオフィサーがやたらフレンドリーになる場面を何度も経験して来た。それはもちろん今流行りの「忖度」でもなんでもなく、彼等がただ日本という国に対して憧れや好意を抱いているからならではの表現だったと思う。では、それがカナダのパスポートになった時に私はどのような対応をされるのだろう。少なくともアメリカは相変わらずで、メキシコもごく普通だった。他国については今後の楽しみにとっておくことにしよう。