ウィンザー日誌

オススメのダシガラ

カナダで続く物価高騰が生活に及ぼす影響の実態

世界中どこもかしこも物価高で人々が苦しんでいるなどという報道を目にするようになってもうしばらくになる。日頃から海外在住者のYouTubeチャンネルを通じて他国での日常を楽しく観させてもらっているのだが、その多くで昨今の物価の高騰について触れられている。

特にヨーロッパ各国に於ける状況は相当厳しいようで、中でも光熱費などはかなり上昇していて、家計にも多大な影響を与えているのだそうだ。彼等の動画の中で挙げられる実際の数字を見ながら、これまでは当地カナダでの上昇率などまだかわいいものだと感じていたところ、ここに来て個人的にショッキングなニュースを目にすることになった。

そのうちの一つが、我が家のお隣さんであるソーセージ屋が今月末で閉店してしまうというもの。

このお店は元々とても評判がいいらしく、ウィンザー市内のみならず、対岸のアメリカ側も含む周辺の町からわざわざ買いに来るような常連客も居ると聞いていた。それなりの値段がするし、こちらの塩味が強いソーセージが苦手な私は2回ぐらいしか購入したことは無いものの、その店主とは毎回会うたびに一言二言交わすぐらいの間柄になっていたのだ。だから十周年を目前にしたお店を彼が閉じてしまうと知るのはやはりショックだった。ニュースによれば閉店の原因となったのが物価の上昇で、これ以上の経営は困難であると判断したようだ。

もう一つも実は同じ記事の中で取り上げられていたお店についてで、何とそのお店はこの9月に我が家の階下にオープンしたばかりの一軒だった。ヴィーガン食材を扱うお店で、完全に私の興味の範囲外ではあるのだが、外から覗いてみても陳列された商品はあまり多くないようだし、2階にある家に居ても下から聞こえて来るのは音楽ばかり。お客さんが来ていればもっと人の声が聞こえてもいいはずなのに、と思っていたらその答えを今回の記事の中に見つけてしまった。

つまりここでも物価高の煽りを受けていると言うのだ。単に仕入れ価格が上がっているとの理由だけではなく、物価の高騰を受けて消費者の生活習慣や購買意欲にも変化が現れた結果、より大きなスーパーに人が流れ、こうした小さなお店では客足が鈍りがちになるのは日本と同じらしい。記事にあった店主の言葉によれば、今の状況のままでは年を越すのも難しいかも知れないとのこと。

これらの出来事は、消費者にとってはただ買い物の選択肢が一つ減っただとか、お気に入りのお店が無くなってしまうというだけの捉え方に過ぎなくても、その経営者にしてみれば生活に大きく支障をきたしかねないもの。

その後ソーセージ屋の店主を見かけ、少しばかり立ち話をする機会があった時も、お店を閉じなくてはいけなくなったことに対する無念さを強く滲ませる表情を目の前にしたら、今後はどうするのかだなんてあまりに残酷に思えて最後まで口には出せなかった。これだと信じるものに心血も資金も全て注いで来て、明るい将来だって見えていたはずなのに、道半ばにして諦めざるを得なくなった人の心情も分からずに、そう気安く聞いていいはずもなかった。

実際のところこうした物価の高騰が消費者に与える影響も決して小さくない。例えばガスも去年の同月と比較して倍になっているし、食料品価格の上昇も顕著で、中でも私が普段購入している卵などは40%近くも高くなった。それでも幸いなのが、カナダにしても、アメリカにしても、ヨーロッパ諸国とは違ってエネルギーのロシアに対する依存率が低いだけでなく、食料自給率も日本からすれば羨ましくなるような数値を毎年叩き出していること。

だからこそ、ヨーロッパに住む人は一体どれだけ大変なのだろうかと思いながらも、結局はどこか他人事のように捉えてしまいがちになるし、また同時に、一時帰国する度に感動すらさせられた食料品の豊富さと安さを、今なお保ち続けている日本社会の異質さにも驚嘆せざるを得ない。

幸か不幸か、コロナ禍の中で3年近い時を過ごして来た今、生活環境の変化にもあたふたするようなことは無くなった。程度の差による部分があるとは言え、そのような状況下に身を置くしか無い以上は適応しようと努めるのが唯一の選択肢であり、コロナはもちろん、私にとってはそのずっと前から続く海外生活を通じて嫌と言うほど学ばされて来たことでもある。今世紀初頭にSARSが流行した時だって、全世界で初めて症例が報告され、その後も多くの感染者を出した場所に住んでいたのだ。

それでも、もういい加減に心を穏やかにして過ごせる日常が戻って来てくれないかとも願う。2022年もその終わりを迎えようとしているのに、新年に対してあまり希望が持てないということがコロナ禍に突入して以来当たり前になり、残念ながら今年もそんな状況に変わりは無さそうだ。